現代造佛所私記 No.242「皓月へ」
もう覚えていないかもしれませんね。初めて会ったのは、ちょうど五年前。十三夜の月夜でした。 運転席の前を白いふわふわしたものが横切りました。慌ててブレーキを踏んだとき、胸がドッドッと早鐘を打ちました。空の遠くで月が照らす山...

もう覚えていないかもしれませんね。初めて会ったのは、ちょうど五年前。十三夜の月夜でした。 運転席の前を白いふわふわしたものが横切りました。慌ててブレーキを踏んだとき、胸がドッドッと早鐘を打ちました。空の遠くで月が照らす山...
夜更けのモニターの光が、机の上を照らしている。フォントの行間を一ミリずつ詰め、文字の重なりを微調整する。 足元には今季初めての電気ヒーター。夜半はコンクリートの上での作業が堪える。時間の感覚が遠のき、目の前の一枚をただ磨...
先日、高知県内の各支部から選ばれた小中学生が集まり、高知市内の県立図書館で自由研究発表会が開かれた。 娘も県東部代表として、参加することになった。決まってから当日までは時間がなく、大慌てで原稿とスライドをつくり、放課後の...
テレビの番組審議委員会へ出かけるのは、この秋で三度目になる。 事前に届くDVDを見て、感じたことをノートに書き留めておく。 当日は、集まった委員の方々と、テレビ局の方々と言葉を交わす。会議の冒頭では、前回のフィードバック...
秋冬用の掛け布団を夫が出してくれた。天日に干し、シーツを洗い、追われるように秋支度をしている吉田家である。 9匹いたアゲハ蝶の芋虫も、一匹残された末っ子がそろそろ蛹化の準備を控え、柑橘の葉を独り占めしている。剥き出しの肌...
夜半の雨が上がった朝は、思いのほか晴れていた。程よい湿り気を含んだ風と、晴れ始めた空の色が、何ということもない一日を特別なものに感じさせる。 今朝はまず、車の掃除から始めた。埃を払い、座席を拭く。お客さまのお迎えに行くた...
大きく開いた窓から、夕方のやわらかな光がさし、教室の影と溶け合っている。児童の姿のない放課後、私たち夫婦は娘の教室にいた。 黒板には、明日の予定が丁寧に板書され、色とりどりのグループ分け表や子どもたちの愛らしい絵が並ぶ。...