晩夏のある日、神社の幽玄な気配が一段と濃くなった日暮れに、篳篥(ひちりき)を奏でながらゆっくりと参道をゆく怜人が二人。
特別な夜の始まりです。
2023年の8月24日、
龍笛演奏家の梅田恵さん(徳島県在住)の発願から数年。
鳴無神社(高知県須崎市)「しなね祭」で、管絃祭が数百年ぶりに復活しました。参考記事をクリック:鳴無神社(高知・須崎市)管絃祭復活
本当におめでたいことです。
この管絃祭復活の志に共鳴し、第一線で活躍される楽人の皆様が高知に参集されました。初めて雅楽を聴いた方も、その妙なる楽の音に感じいっておられたと聞きました。
この歴史的な瞬間を目撃できたこと、しかも演奏者として参加できたことは、忘れられない思い出です。
平安時代、この祭りの演奏ために都から土佐へ下ったという篳篥の名手、和爾部用光(わにべのもちみつ)。
都への帰路で襲ってきた海賊を、渾身の演奏で改心させた逸話を「十訓抄」に残し、管絃祭の輪郭を
朧げながら今に伝えています。
当日の様子を振り返りながら、皆さまに分かち合わせください。
祭りで賑わい始めた宵の口、海の方から聞こえてくる黄鐘調(おうしきちょう)調子。篳篥を奏でながらゆっくり参道から拝殿に進む烏帽子に狩衣姿の伶人二人。
『伶楽舎』の中村 仁美さま 、『参州雅楽社中』会長の原田 余里子さまです。
「用光の魂が土佐・須崎に帰ってきた…」
何とも言えぬ感慨が湧き上がりました。
鳥居から座に着くまでの間、現在と平安時代が重なり合うような不思議な空気が醸されていきました。
次に、雅楽の名曲中の名曲「海青楽」。
拝殿を中心に本殿、境内に満ち夜空へ、鳥居をくぐって入り江へ、そして凪いだ波面へと甘く溶けこんで…。古い記憶に触れているような懐かしい時間が流れていきます。
続いて舞楽「陵王」。
中村香奈子さんが、興がのった平安貴族さながら、狩衣姿で凛々しく美しく舞われました。雅で洗練された舞姿と、思わずこちらまで舞いたくなるエキゾチックな旋律。夜の空気にすっぽり包まれながらも、拝殿は陽の気に満ちていきました。
そして朗詠「嘉辰」。
この果てない喜びが、千年万年経っても尽きることがない、と演奏者全員で歌いました。私の笛の先生であり、楽仲間でもある中村香奈子さんが「歌うことはその場に良い気配を刻印すること」とおっしゃっていたことを思い出しながら…。
昔から、神仏に捧げる雅楽の演奏空間として、多くの場合屋外で周囲の自然環境と調和しながら奏されてきたといいます。
後で聞いたところ、奉納演奏が始まると、それまで厚い雲に覆われていた空が神社上空だけ晴れ、星が光り始めたとか。
昔の人は、自然と音楽の調和を当たり前のように感じ体験していたのかもしれませんが、現代に生きる私には、初めてのことだらけ、驚くことばかりでした。
鳴無神社の森田宮司さまはじめ
社人、氏子のみなさま
地域のみなさま
応援してくださったみなさま
ご一緒させていただいた怜人のみなさま、
本当にありがとうございました。
(Part.2に続く)
管絃祭復興有志の会メンバー(敬称略)
【演奏】
茶屋コリトリ 店長
梅田 恵(総監督、龍笛)
香風舎、花舞鳥歌風遊月響雅楽団
中村 香奈子(龍笛、舞)
宇佐見 仁 (篳篥、鞨鼓)
伶楽舎
中村 仁美(篳篥、楽箏)
参州雅楽社中 会長
原田 余里子(篳篥)
遊絃楽舎、花舞鳥歌風遊月響雅楽団
佐藤 愛美 (龍笛・楽琵琶)
至淵境、トラロ会代表
林 哲至 (鳳笙)
雅楽戦隊かなでる〜ん
青木 和美 (鳳笙、太鼓)
鳳笙演奏家 雅楽芸人
カニササレアヤコ(鳳笙)
よしだ造佛所
吉田 沙織 (龍笛)
【撮影】
北村 健三(本投稿の画像は北村健三さま撮影)
【伶人サポート】
吉田 安成