現代造佛所私記 No.223「観音様のような人」
快晴。金木犀の香りが色濃く、日差しに力を感じる朝だった。今日は生涯大学での三度目の講演。午前中、資料と原稿に最後の目を通し、車で小一時間ほどの会場へ向かう。正午近く、秋の陽は容赦なく降りそそいでいた。 文化施設の最上階に...

快晴。金木犀の香りが色濃く、日差しに力を感じる朝だった。今日は生涯大学での三度目の講演。午前中、資料と原稿に最後の目を通し、車で小一時間ほどの会場へ向かう。正午近く、秋の陽は容赦なく降りそそいでいた。 文化施設の最上階に...
満月の翌朝。空はまだ薄暗く、少し雲がかかっていた。玄関を出ると、ひんやりとした新しい空気が肌に触れる。 娘をバス停へ送る道すがら、手を繋ぎ川沿いの小道をテクテク歩く。川向こうに熟れた柿の実が重たげに枝にぶら下がり、石垣に...
休日の午後、家族で日帰り温泉に出かけた。湯けむりの向こうに秋の陽が差す。日中はまだ夏日が続いているというのに、湯の温もりが体の奥まで沁みた。 お湯から上がり、棚のタオルを取りに行くと、何やら人だかりができていた。サウナを...
メールやチャットで挨拶も事足りる時代に、和紙と筆をとる。時代遅れになりつつある行為かもしれない。けれど、こんなにも心を澄ませて、温かな気持ちにさせてくれるとは。 パソコンで文章を推敲したのち、机の上をきゅっと拭き上げ、乾...
「お母ちゃんのお手て、温かいね。大好き!」 朝、娘と手をつないで、いつものようにバス停へ向かう。山の朝は半袖だとブルっと震えるくらい秋が深まっている。 日陰の小道を曲がった瞬間、柔らかい陽光と金木犀の香りにふわっと包まれ...
玄関先のプランターには、バジル、ミント、パセリ、タイム、ローズマリー、ラベンダ──。 小さな庭のように、いくつものハーブが根を張っている。 始まりは、実家からもらった一本のローズマリーの枝であった。短い枝先から根が出て、...
(前編まとめ) 七月上旬、ベルリンに住む青年Mさんから一通のメールが届いた。「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つ...