現代造佛所私記 No.56「隙間の音色の先に」
朝の斎庭に、眩しい陽光が差し込んでいる。楽器や譜面を手に境内に入ると、すぐに汗ばむほど日差しを受けた。 澄み渡った空に、悠々と伸びる杉を見上げながら、「晴れてよかったねぇ」と声を掛け合う神官と伶人たち。 今日は、若一王子...
朝の斎庭に、眩しい陽光が差し込んでいる。楽器や譜面を手に境内に入ると、すぐに汗ばむほど日差しを受けた。 澄み渡った空に、悠々と伸びる杉を見上げながら、「晴れてよかったねぇ」と声を掛け合う神官と伶人たち。 今日は、若一王子...
梅の香りが時折かすめる山あいの小さな町。麓から見る山は、いただきに白い帽子をかぶりつつも、春を待ち侘びた生き物を解き放とうとしていた。 確かな春の兆しがあるというのに、この六畳の和室では、季節の気配も、時の流れも止まって...
「今だ」 お鍋に湯を沸かしている時間。パソコンが重いファイルを開くまでの数秒。夫が食事に戻ってくるまでの数分。あるいは買い物に行く車中で。 そんな「待ち時間」が、いまの私の龍笛の稽古時間だ。 令和7年4月26日、高知のと...
「うーん。どうしたものか」 昨夜、手帳をじっとみながら、考え込んだ。 明日の午後の枠に、「参観日」と「打ち合わせ」の予定が、色違いで記入されている。 打ち合わせは前々から決定していて、参観日には行けない、ごめんね、と娘に...
今、これを書いている間に、吉田仏師(夫)が得意のビリヤニとスパイスカレーを作ってくれている。今日の夕飯は、完全に夫まかせだ。 私は土間にある仕事机でPCに向かっているのだが、そのすぐ後ろが台所なので、どうしても美味しそう...
一体この一週間、何を書いて、何を感じて過ごしていたんだっけ?新しい週に入った途端、嘘のように忘れていた。 ブログをたどり、それぞれを読み返す。日常の断片から生まれた言葉たち。本番を控えた心の揺らぎ、炭火で沸かした白湯の味...
18歳の頃から3年間、宣伝美術として無我夢中で、時には徹夜もいとわなかったあの時代から、ずいぶんと時間が経った。 試行錯誤しながら作った劇団の公演チラシたち。一緒にファイルに大切に綴じていた版下も、引越しを重ねるうちにど...
大学時代、私はひょんなことから劇団の宣伝美術を任されることになった。小さな学生劇団で、他の劇団員より多少絵心がある、というだけの理由だった。全く経験はなかった。 そんな状態で、入団1ヶ月後に作った最初のチラシ。タイトルや...
「朝だよー」 まだ薄暗い部屋で、娘を起こす私の声かけに、もぞもぞと眠たそうにうごめく小さな体。目を閉じたまま、ゆっくりと私に身を寄せてくる。 「大好きたっち」それは、娘が赤ちゃんのころから我が家にある、朝一番のハグ——か...
今月は、ふたつの「本番」を控えている。 茶道の点前と、神社での雅楽奉納演奏。 どちらも、神仏を荘厳する大切な時間だ。 ありがたいことに仕事のご依頼が続き、ついつい日が暮れても夢中になっている。夫に「まだやってるの」と言わ...