現代造佛所私記 No.244「一人のためのHappy Halloween」

すっかり日本にも根づいたハロウィンだが、我が家では特別な飾りつけをするでもない。ただ、娘は保育園のころから季節の行事として楽しんできたので、なんとなく仮装をしたい気持ちだけが残ったようだ。それで、いまは「お隣さんに見せるためだけの仮装」をするのが恒例になっている。

今年も私と夫の黒いTシャツやスカートを引っ張り出してきて、黒猫に仕立てた。猫耳のカチューシャをつけ、フェルトで作った付け襟を結ぶ。顔には、私がアイライナーとアイシャドウで、マズルとウィスカーパッド――猫の鼻から口元にかけて、髭が生えている膨らみ――を描き込んだ。

昨年よりずっと猫らしく、少しだけミュージカル『CATS』のように。筆先を滑らせながら、私まで心が浮き立つ。

今日は嵐のような一日で、ようやく雨は上がったけれど強い風が吹き荒れていた。夕暮れの道には葉や枝が散り、道脇の渋柿の実が薄ぼんやりと灯っている。かぼちゃでないにしても、色合いはハロウィンらしい。

そんな道を、一年に一度現れる大きな黒猫がてくてくゆく。

まるで英国の郊外にぽつんとあるような隣家のアプローチ。黒猫は迷いなく進み、インターフォンを押す。玄関灯がとろりと丸くあたりを照らしている。

「Trick or treat!」

声を張る娘に、お隣さんが笑顔で迎えてくださった。照れくさそうにカゴを差し出す娘の手に、お菓子を山ほど手渡しながら、「今年も猫ちゃん来てくれたのね」と、まるで孫を迎えるように目を細められる。

週に一度、絵本ギャラリーもされているご婦人は、素敵な庭を守りながら静かに暮らしておられる。娘も私も大好きな方だ。

いっぱいのお菓子をいただいてほくほくと帰宅すると、娘はそのままの格好で夕飯を食べるという。父親にも見せたいらしい。娘はその後二時間ほど、そのままの格好で過ごした。

年に一度の仮装は、慎ましくも楽しい非日常で、こわばった心をほぐしてくれる。

お隣さんの笑顔と、黒猫のまま夕食をとる娘を眺めながら、こんな小さな行事の中にも、季節をめぐる幸福が静かに宿っているのだと思った。

来年も、もっと大きくなった黒猫と一緒に、隣家のご婦人に会いに行けたらいいな。