現代造佛所私記 No.242「皓月へ」

もう覚えていないかもしれませんね。初めて会ったのは、ちょうど五年前。十三夜の月夜でした。

運転席の前を白いふわふわしたものが横切りました。慌ててブレーキを踏んだとき、胸がドッドッと早鐘を打ちました。空の遠くで月が照らす山道に、車はほとんど通らず、虫の声だけが小さく響いていました。

車を降りて、周囲を注意深く見回しました。動物を傷つけていたらどうしようと、祈るような気持ちで。けれど、何もいません。おかしいな、逃げたのかなと車の下を覗き込むと——白く丸い、小さな生き物がいました。

それがあなたでした。

逃げもせず、さりとて近づくでもなく、車のお腹の下に入り込んだあなたを、私は放っておけませんでした。日傘の柄でそうっと引き寄せ、抱き上げました。

分泌物で顔がひどく汚れて目も開けられず、鳴こうとしても声が出ません。病気なのだと、一目でわかりました。手のひらにすっぽり収まる体は暖かく、確かな命の存在がありました。

山奥の工事現場と街を往復する大きなトラックが、あの頃ひっきりなしに行き交っていました。あんなに小さかったあなたが無事だったことは、奇跡のように思えました。

迷わず連れて帰ろうと決めて、車に乗せてから家に電話をしました。「子猫を連れて帰るね」と。

家には子猫の食べられるものがありませんでした。せめて水をと用意しましたが、自力では飲めません。古い毛布で寝床を作り、ペットボトルにお湯を入れて湯たんぽにすると、あなたはすぐに眠ってしまいました。鼻が詰まって、ズズズ、ズズズという呼吸音がかわいそうでした。

ひどい猫風邪だと獣医に言われました。今でも鼻水や涙がすっきりしませんが、朝晩の大運動会や、妹分のウニとのレスリング。元気いっぱいの五歳の秋を迎えて、しみじみと嬉しく思います。

あの夜を、不意に思い出しました。あなたと会った五年前の夜と同じ時間、同じ場所を通りかかって、間もなく半月になる月の光を見上げたとき。

皓月、私たちのところへ来てくれてありがとう。優しくて楽しいあなたが家族になってくれて、幸せです。この世に命をいただいたもの同士、これからも仲良くしていこうね。