現代造佛所私記 No.246「世にも珍しい仏像工房発のPRサービス(2)独学でのPR」

仁王像の修理が始まるころ、私はふと思った。――この営みを、ただ修理で終わらせてはいけないのではないか。

ここで暮らす人々の祈りや、故郷を思う気持ちを、きちんと伝えたい。そんな思いが、胸の奥でふつふつと湧きあがってきたのだ。

アルゴリズムに支配されるSNSでは、届けられる範囲に限界がある。それならば、と私は高知県内の新聞社やテレビ局に向けて、自己流で書いた報道資料を、手紙を添えて送ってみることにした。

その行為が何と呼ばれるかも知らなかった。けれども、これがのちに、私がPRプロデューサーとして歩き出す最初の一歩となるのである。

結果、初めての試みで五社のメディアに取材していただけた。SNSで記事が拡散され、県外の方々にも知っていただけた。今でも当時の記事はインターネット上で読めるし、地元の小学生がその新聞記事を切り抜いて保存してくれていることも知った。特集番組は、YouTubeの中に今も残っている。

きっと何十年たっても、これらの記録はどこかに残るだろう。

メディアで取り上げられたことで、工房を見学に来てくれる人や、お寺にお参りに訪れる人が少しずつ増えていったと聞き、本当に嬉しかった。

「よかった。次は修理が完成したら、またメディアに連絡しよう」。そう思いながら、日々の作業を続けていた。

ところが――。ほっとしたのも束の間、世の中はコロナ禍へと突入した。

法要や行事が相次いで中止となり、神仏像の制作や修理の依頼も次々に見送られた。仕事が途絶え、工房は経営の危機に陥った。さらに、頼りにしていた鍛冶屋さんや製材屋さんが次々に廃業してしまい、職人を支える職人たちが、静かに姿を消していった。

暗澹たる気持ちで、夫婦で何度も話し合った。「仁王さまの修理が終わったら、工房をたたもうか」。そんな言葉が、夜更けの工房で、ぽつりとこぼれることもあった。

(アイキャッチは、2020年テレビのインタビューに答える吉田仏師。)