「このままでは終われない」
コロナ禍で工房の仕事が途絶えたとき、胸の奥からそんな声が聞こえた。仁王さまの修理で感じた”伝えることの力”を、もう一度信じてみようと思ったのだ。
初めて取材してもらった日のことを、今もよく覚えている。「見たよ」「あれ、よかったね」「初めて知った」「お参りに行くね」と声をかけてくれた人たち。伝えることで、人の心が動く――その体験が、私の支えになっていた。
とはいえ、それまでのPRは完全な独学だった。「本格的に学ばなければ続けていけない」。そう思い、私は株式会社LITA(笹木郁乃社長)が主宰するPRプロデューサー養成スクール「PR塾」に入学した。
PRの第一線で活躍する人々から手ほどきを受け、同志と学び合うなかで、メディアリレーション含むPRの基礎から、戦略設計、取材誘致、SNS戦略、出版PRまで、結果につながる実践的なスキルを一から身につけた。
家族も応援してくれた。塾生の中からMVPに選ばれ、さらに協会のPRプロデューサー認定試験にも合格することができた。”伝える”という営みを、実践として、そして職能として引き受ける覚悟が、ようやく芽生えた。
学びを重ねるうちに確信した。
PRの本質とは、単に情報を拡散することではなく、人と人とがより良い関係を築き、幸せになっていくことにあるのだと。
それは、仏師の仕事とも同じかもしれない。仏像は誰かの幸せを願って生まれ、仏縁を結んでいくのだから。その仏像を作ること・直すこともまた、目に見えない絆を紡ぐ仕事だ。
人口動態に伴って過渡期にある神社仏閣にも、伝統文化の現場にも、PRは必要だ。誰かが誠実に橋をかけなければ、守り継がれてきた営みは社会の記憶からこぼれ落ちてしまう。
そう肌で感じていた私は、「仏像工房発のPRサービス」を立ち上げる決意を固めた。
その名は「承欣(しょうごん)」。仏教用語である”荘厳(しょうごん)”と同じ音を持つこの名には、先人から受け継いだ欣(よろこ)びを承け取り、未来へ伝えるという願いを込めた。
承欣のPRは、単に露出を増やすことではない。地域や文化、歴史と「いま」をつなぎ、人と人、人と土地、人と時間の関係を、より良い形で編み直していくことを目的としている。
PRとは、過去と現在、そして未来を結ぶ座標を描く営みでもある。その座標の一点に、いま自分が立っている。そう思うと、これまでの道のりのすべてが線となり、静かに次の方向を指し示してくれる気がした。
限界集落の一角で始まった一枚の報道資料が、いつしか私を、プロのPRプロデューサーへと導いた。そして、静かな山間の小さな工房から、小さいながら思わぬ波紋が広がっていく。
(つづく)


