現代造佛所私記 No.29「皓月 (2)」
十三夜に突然現れた白い子猫。 家に連れ帰り灯りの下で見れば、目脂でまぶたが開かない。声も掠れ、どうも匂いも分からないらしい。水すら自分で飲めず、衰弱していた。 ペットボトルの湯たんぽを作り、土間に寝床を整えた。 秋深まる...

十三夜に突然現れた白い子猫。 家に連れ帰り灯りの下で見れば、目脂でまぶたが開かない。声も掠れ、どうも匂いも分からないらしい。水すら自分で飲めず、衰弱していた。 ペットボトルの湯たんぽを作り、土間に寝床を整えた。 秋深まる...
十三夜の月が、山道をやわらかな銀色の光で照らしていた。 翌日の法要に参列するための用事を済ませ、娘と二人、車で家路を急いでいた。秋深まる山道に入ると、窓を閉めていてもかすかに湿った草木と土の清冷な香気が入り込んでくる。 ...
花見客で賑わう高知城を背に、吉田仏師が口を開いた。 「”四国の仏像は修復も一通り終わって、新作の仕事ももうない”って言われたんですよ」。 高知に来て丸8年。移住当時に誰かから言われた言葉を、彼は今も覚えていた。 博物館の...
夜にかけて風と雨の音が強くなった。桜を散らす、春の雨だ。 「座らせて」。 書き物をする私の横に、ふわっと娘が座り込んだ。 引っ越してきた時のこと、覚えてる?と訊ねると、瞳をくるんと数秒上にむけてから、不思議そうに私の目を...
7年ほど、ゆっくりとしたペースで茶道の稽古に通っている。 実母は娘時代から裏千家を学び、私もまた幼いころから抹茶と練り切りの味を知った。自宅には茶道具が一揃いあり、幼心に畏れと憧れを抱きながら、それらに手を伸ばした記憶が...
「右手の10番へどうぞ」 決して広くはない駐車場で、ハンドサインと軽やかな声が迎える。要所に配備された警備員たちが、今日も見事な連携を見せていた。 私も子どもも心躍らせてやってきたのは、「図書館」。我が家にとって一番のア...
海辺の町の昼下がり、師走とは思えない日差しが注いでいた。 実家玄関の三和土(たたき)一面にブルーシートを敷き詰め、バケツに水を張る。 「トン、トン、トン、トン」 木槌のやや鈍い音がドアを挟んだ前庭から聞こえる。稲藁をたた...
夫と子どもが床に就いてから、炊飯器を開ける。湿らせた両掌にパッと粗塩をまぶし、米をよそった。 「きゅっ、ちゃっ、きゅっ、ちゃっ」 手首にスナップを効かせて米を握りつつ、翌朝の段取りを反芻する。1日を終えた台所は音がよく響...
蕗のとうも旬が過ぎた三月下旬、雪雲が高知までやってきて山を白く染めた。 SNSで降雪の様子を投稿すると、NHKから「夕方の番組で取り上げたい」と連絡があった。 南国高知の3月の雪は、ニュースになるのだ。 草花には確かに春...
「始まった始まった!」 春分の日。家族そろって、居間で興奮している。 日中居間でくつろぐことはほとんどない我が家だが、今日は特別だ。 仕事の手を止めて、吉田仏師がテレビのリモコンを操作している。 「予選を開始します。入場...