現代造佛所私記 No.207「石段」
彼岸花の赤が道端に燃え、フジバカマの薄紫が風に揺れている。柿の実が重たげに色づき、青い柚子がぽってりと膨らみはじめた。 誰もいない細い参道を歩けば、雨上がりのぬかるんだ土が、チャ、チャ、となる。サラリとした微風が耳たぶを...

彼岸花の赤が道端に燃え、フジバカマの薄紫が風に揺れている。柿の実が重たげに色づき、青い柚子がぽってりと膨らみはじめた。 誰もいない細い参道を歩けば、雨上がりのぬかるんだ土が、チャ、チャ、となる。サラリとした微風が耳たぶを...
先日、市の図書館で開催されている、子どもたちの自由研究の展示を見に行った。 会場に足を踏み入れると、ほんのりと糊や紙の匂い。図書館の静謐な空気とは対照的に、なにか生々しい創造の匂いがした。 壁一面に並ぶ模造紙、テーブルに...
それまでの境内の空気が、また一変した。 舞楽「抜頭」が始まった。 舞人が首を振るのにあわせて、朱の面が鈍く光を照り返す。太鼓の響きと楽の音が、舞人の震える手、振り乱した髪と合わさって、胸に迫ってくる。足でドンと踏み鳴らさ...
九月の陽射しは、まだ容赦がない。けれど神社境内を渡る風に、ふと秋の匂いがした。昨日の激しい雨が嘘のような快晴である。空の青さが、今日という日を寿いでいる。 通夜殿前に、丸イスが並んでいく。緑のテントが張られ、舞台が整って...
明日、ある神社のご本殿創建150年を記念した雅楽奉納演奏を控えている。 今日は、出先での用事を済ませ、その神社にお詣りに出かけた。 静かな境内をご本殿の方へ足をすすめると、ぽつ、ぽつと雨が降り出した。この天気のせいだろう...
仕事の打ち合わせに向かう途中だった。 家の近くのキャンプ場のカフェへ歩いていくと、見慣れない県外ナンバーの車がこちらに向かってくる。観光客かと思いきや、カフェを通り過ぎ、さらに先へ進もうとしている。この道の先にあるのは、...
吉田仏師の仕事部屋に置かれた道具箱。久しぶり(と言っても2週間ぶりぐらい)にふたを開けてみると、思いがけない光景が広がっていた。 刃物が並ぶ桐箱の隅に、アリたちが巣をつくり、卵を育てていたのだ。その様子が映ったスマートフ...
きのう、県外のお寺にて仏像の応急処置を行った。 手拭いを頭に被り、ヘッドライトをつけ、黒い作務衣に黒いパンツで堂内に足を踏み入れる。 薄暗がりの中で、だんだんと衣はほこりに白く染まっていく。何十年、いや百年単位で積もった...
高知市内でカフェを営むYさんが、山上の工房まで龍笛のお稽古に訪れてくださった。 ミュージシャンとして幅広く活動されていた方で、囚われのない自由さで音を紡がれる。ご縁あって一緒に笛を稽古するようになって、気づけば一年が経っ...
黒一色の革に、小さなうさぎのモチーフがひとつ。 出張の荷造りをしていて、ふと手が止まった。長年使い続けてきた名刺入れが、なぜかいつもと違って見えたのだ。一見シンプルだが、そこはポール・スミス。さりげない遊び心が、持つ人の...