現代造佛所私記 No.33「皓月 (6)」
8月の終わりに奇跡が起きた。 その日は、予定外の用事で帰宅が日暮になった。 「ずいぶん日が短くなってきたね」などと話しながら、星が瞬き始めた山の麓に差し掛かった時だった。 白い影がさっと車の前を横切った。 「あれ、今のっ...

8月の終わりに奇跡が起きた。 その日は、予定外の用事で帰宅が日暮になった。 「ずいぶん日が短くなってきたね」などと話しながら、星が瞬き始めた山の麓に差し掛かった時だった。 白い影がさっと車の前を横切った。 「あれ、今のっ...
猫2匹との生活が始まり、家の中が狭くなった。 先住猫の皓月(雌、生後7ヶ月)と、治療中のため隔離された日華(雌、推定7歳)は、ケージ越しに微妙な距離を保っていた。 「気が合わない猫は一生気が合わない」 動物病院でそう聞い...
涙目と一生付き合っていく運命を背負ったものの、すっかり元気になった保護猫・皓月(こうげつ)。 スクスク成長し、鹿子柄の青い首輪がよく似合うお嬢さんになった彼女は、避妊手術を迎えるまでになった。 そんなある日、不思議な因果...
山道で保護した猫の皓月は、重度の猫風邪とコクシジウム症で、治療が必要とのことだった。 自宅で駆虫剤を飲ませながら、インターフェロン治療のため5日間連続で通院した。時間のやりくりは大変だったが、とにかく元気になってほしい一...
十三夜に突然現れた白い子猫。 家に連れ帰り灯りの下で見れば、目脂でまぶたが開かない。声も掠れ、どうも匂いも分からないらしい。水すら自分で飲めず、衰弱していた。 ペットボトルの湯たんぽを作り、土間に寝床を整えた。 秋深まる...
十三夜の月が、山道をやわらかな銀色の光で照らしていた。 翌日の法要に参列するための用事を済ませ、娘と二人、車で家路を急いでいた。秋深まる山道に入ると、窓を閉めていてもかすかに湿った草木と土の清冷な香気が入り込んでくる。 ...
花見客で賑わう高知城を背に、吉田仏師が口を開いた。 「”四国の仏像は修復も一通り終わって、新作の仕事ももうない”って言われたんですよ」。 高知に来て丸8年。移住当時に誰かから言われた言葉を、彼は今も覚えていた。 博物館の...
夜にかけて風と雨の音が強くなった。桜を散らす、春の雨だ。 「座らせて」。 書き物をする私の横に、ふわっと娘が座り込んだ。 引っ越してきた時のこと、覚えてる?と訊ねると、瞳をくるんと数秒上にむけてから、不思議そうに私の目を...
7年ほど、ゆっくりとしたペースで茶道の稽古に通っている。 実母は娘時代から裏千家を学び、私もまた幼いころから抹茶と練り切りの味を知った。自宅には茶道具が一揃いあり、幼心に畏れと憧れを抱きながら、それらに手を伸ばした記憶が...
「右手の10番へどうぞ」 決して広くはない駐車場で、ハンドサインと軽やかな声が迎える。要所に配備された警備員たちが、今日も見事な連携を見せていた。 私も子どもも心躍らせてやってきたのは、「図書館」。我が家にとって一番のア...