現代造佛所私記 No.213「ベルリンからの便り(前編)―偶然の符合」
七月上旬のことだった。ベルリンに住む青年Mさんから、一通のメールが届いた。 「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つ...

七月上旬のことだった。ベルリンに住む青年Mさんから、一通のメールが届いた。 「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つ...
昨年の夏、実家で採れた小夏を家族で食べた。娘が種を「ぺっ」と吐き出す。その粒を空いた鉢に埋めてみたら、やがて芽が出た。苗木は五つ。今ではどれも一尺ほどになっている。 芽が伸び始めたころ、夫と「どうしようか」と話した。地に...
「枝豆は娘の大好物だ。きっとそのことも覚えていてくれたのだろう。遠い異国の台所に、我が家の記憶がよみがえっていることが、なんと愛おしいことか。」 胸がジーンと温まるのを感じながら、私は慌てて返信を打った。 「Dear M...
秋空に揺れる尾花を見ながら、心はどこか青葉の季節を思い浮かべていた。 五月の風が心地よい高知に、ドイツの若き木彫家Mariekeがやってきたあの日のこと。よしだ造佛所のインターンとして仏像製作を学ぶために、初めての日本に...
玄関のチャイムが鳴った。 秋風の立ち始めたある朝のこと。扉を開けば、大家さんがそこに立っていらした。手には白いレジ袋。持ち手が中身の重みで、ぴんと張り詰めている。 「これ、栗です。どうぞ」 袋を覗けば、鬼皮に包まれた艶や...
彼岸花の赤が道端に燃え、フジバカマの薄紫が風に揺れている。柿の実が重たげに色づき、青い柚子がぽってりと膨らみはじめた。 誰もいない細い参道を歩けば、雨上がりのぬかるんだ土が、チャ、チャ、となる。サラリとした微風が耳たぶを...
先日、市の図書館で開催されている、子どもたちの自由研究の展示を見に行った。 会場に足を踏み入れると、ほんのりと糊や紙の匂い。図書館の静謐な空気とは対照的に、なにか生々しい創造の匂いがした。 壁一面に並ぶ模造紙、テーブルに...
それまでの境内の空気が、また一変した。 舞楽「抜頭」が始まった。 舞人が首を振るのにあわせて、朱の面が鈍く光を照り返す。太鼓の響きと楽の音が、舞人の震える手、振り乱した髪と合わさって、胸に迫ってくる。足でドンと踏み鳴らさ...
九月の陽射しは、まだ容赦がない。けれど神社境内を渡る風に、ふと秋の匂いがした。昨日の激しい雨が嘘のような快晴である。空の青さが、今日という日を寿いでいる。 通夜殿前に、丸イスが並んでいく。緑のテントが張られ、舞台が整って...