現代造佛所私記 No.229「連絡帳のサイン」

今日は「彰子」と書いた。
小学校の連絡帳に記す、私のサインである。

「吉田」とは書かない。今年の二学期から、娘との小さな約束があるからだ。

それは、連絡帳のサインがわりに、歴史上の人物の似顔絵を描くこと。いや、人物ではないかもしれない。娘が夢中になっている漫画『ねこねこ日本史』に登場する、あの猫たちを描いてほしいというのだ。

この漫画は、日本史の人物がすべて猫として登場し、歴史の名場面を愛らしくなぞっていく。娘は寝ても覚めても「ねこねこ日本史……」と呟き、ついには「サインもねこねこ日本史にして!」と言い出した。九月の最初の月曜日から始まったこの習慣も、もう一か月半を過ぎた。

最初は「卑弥呼」に始まり、聖徳太子、聖武天皇。やがて時代は江戸から明治へと進み、鎌倉へ戻り、最近は奈良〜平安のころまで遡っている。

ちなみに、昨日は「藤原倫子」を描いてほしいと頼まれた。

私もすっかり慣れて、キャラクターをインターネットで調べては筆ペンを手に、するすると描いていく。最後に「吉田」ではなく、歴史上の人物の名をしたためる。

ふと連絡帳をめくってみると、ページのあちこちに小さな猫たちがひょいと顔を出しているようで、なんとも楽しい。娘にとって、楽しいことばかりではない学校生活の中で、この猫たちが、ひとときの気晴らしになっているらしい。

私にとっても、このサインは一日の締めくくりの小さな儀式になっている。筆先に心を整え、娘の笑顔とともにその日を終える。

連絡帳というものは、本来、事務的な確認の場である。けれど私たちは、そこに小さな余白を見つけた。担任の先生が、何も言わず見守ってくださっていることを嬉しく思う。

この習慣が、娘の歴史への愛情とともに、心のやりくりを覚えるための、小さな方便になればと願っている。

いつまで続くかはわからない。
けれど今日もまた、筆ペンを手に取る。明日は誰を描いてというのかな。娘の頭の中にはもう、次の次の次の日まで、候補が並んでいるのではないかな。