大きく開いた窓から、夕方のやわらかな光がさし、教室の影と溶け合っている。
児童の姿のない放課後、私たち夫婦は娘の教室にいた。
黒板には、明日の予定が丁寧に板書され、色とりどりのグループ分け表や子どもたちの愛らしい絵が並ぶ。
お稽古中の「牛」という毛筆作品。小さな机と椅子。すべてが微笑ましく、秩序のある世界だ。
その一角に、小さなスペースを見つけ、パソコンや手帳、筆記用具を広げる。今日は、娘がはじめて先生方の前で自由研究の発表練習をする日だった。
夏休みの自由研究が思いがけず市の賞をいただき、次は県での発表へ。あと数日で迎える本番に向けて、限られた時間の中で準備を進めてきた。本人は緊張しているのか、どこかおどけた様子を見せている。
「どうしたら、聞く人が楽しくなるかな?」
「どうしたら、“この研究、応援したいな”と思ってもらえるだろう?」
そんな問いかけから、親子の共同制作が始まった。
無駄を削ぎ、順番を整え、本人が描いたイラストをデータ化してスライドに配置する。クイズやゲーム風の工夫を盛り込みながら、スライドと原稿を少しずつ仕上げていく。
娘が選んだテーマカラーに、彼女の描いたキャラクターたちが並ぶと、研究の向こうに「人生を楽しんで!」というメッセージが透けて見えるようだった。
自宅での読み合わせでは、ぎこちなかった声が、だんだんと滑らかになっていった。画面に並ぶ色と文字が、次第に彼女の声と一体になっていく過程は、新しい世界の輪郭が描かれていくようでもあった。
先生方から見れば、研究としてはまだ粗も多く、工夫の余地もあるだろう。それでも、できる限りの力を尽くして導いた結果や考えを大切に、「ここにこんなイラストはどう?」「うーん、この表現はちょっと違うかな」と、彼女は何度も磨き続けている。
教室での練習は三回ほど行った。回を重ねるごとに声の調子がほぐれ、自然な抑揚がつき、先生方からも温かなフィードバックをいただいた。発表を終えた娘の額には、うっすらと汗がにじんでいた。
「がんばったね、とてもよかったよ」と声をかけると、彼女はニカッと笑った。そしてすぐさま、「ここ、ちょっと違う」と細かな修正点を教えてくれる。子どもの“伝えたい”は、ときに大人の想像を軽く飛び越えていく。
発表まであとわずか。
学校では、もう一度練習できるかどうか。心もとないけれど、できることをするだけだと思えば、気も楽になる。
どうか本番では、自分らしい声で、
この研究の小さな芽を、のびのびと咲かせてほしい。


