現代造佛所私記 No.59「カタカタ、タン」
遅い朝食を済ませ、台所を片付けた私は、土間にある仕事机に腰を据えた。 「さて、始めるか。」 キーボードの上に両手を軽くかまえる。 6月中旬にある文化財の学会に向け、要旨集の原稿に向かう。今日は昭和の日。世間ではゴールデン...

遅い朝食を済ませ、台所を片付けた私は、土間にある仕事机に腰を据えた。 「さて、始めるか。」 キーボードの上に両手を軽くかまえる。 6月中旬にある文化財の学会に向け、要旨集の原稿に向かう。今日は昭和の日。世間ではゴールデン...
家の前に植えた野薔薇が、今年最初の花を咲かせた。 五年前、実家の裏庭で伸びていた野薔薇から小さな枝を一本もらって、土に挿した。真冬の雪にも、猛暑の日差しにも耐えながら、少しずつ枝葉を広げて、さしかけを覆っている。 蕾をた...
「あ、この香り」 香りの主を確かめるよりも先に、心だけが一年前へと遡っていた。 しばらく体調を崩し、ようやく動けるようになった頃。体力を取り戻そうと、朝、滝まで歩くことを日課にした。 自宅から片道徒歩15分、折り返して3...
朝の斎庭に、眩しい陽光が差し込んでいる。楽器や譜面を手に境内に入ると、すぐに汗ばむほど日差しを受けた。 澄み渡った空に、悠々と伸びる杉を見上げながら、「晴れてよかったねぇ」と声を掛け合う神官と伶人たち。 今日は、若一王子...
梅の香りが時折かすめる山あいの小さな町。麓から見る山は、いただきに白い帽子をかぶりつつも、春を待ち侘びた生き物を解き放とうとしていた。 確かな春の兆しがあるというのに、この六畳の和室では、季節の気配も、時の流れも止まって...
「今だ」 お鍋に湯を沸かしている時間。パソコンが重いファイルを開くまでの数秒。夫が食事に戻ってくるまでの数分。あるいは買い物に行く車中で。 そんな「待ち時間」が、いまの私の龍笛の稽古時間だ。 令和7年4月26日、高知のと...
「うーん。どうしたものか」 昨夜、手帳をじっとみながら、考え込んだ。 翌日の午後の枠に、「参観日」と「打ち合わせ」の予定が、色違いで記入されている。 打ち合わせは前々から決定していて、参観日には行けない、ごめんね、と娘に...
今、これを書いている間に、吉田仏師(夫)が得意のビリヤニとスパイスカレーを作ってくれている。今日の夕飯は、完全に夫まかせだ。 私は土間にある仕事机でPCに向かっているのだが、そのすぐ後ろが台所なので、どうしても美味しそう...
一体この一週間、何を書いて、何を感じて過ごしていたんだっけ?新しい週に入った途端、嘘のように忘れていた。 ブログをたどり、それぞれを読み返す。日常の断片から生まれた言葉たち。本番を控えた心の揺らぎ、炭火で沸かした白湯の味...
18歳の頃から3年間、宣伝美術として無我夢中で、時には徹夜もいとわなかったあの時代から、ずいぶんと時間が経った。 試行錯誤しながら作った劇団の公演チラシたち。一緒にファイルに大切に綴じていた版下も、引越しを重ねるうちにど...