現代造佛所私記 No.224「見守るということ」
終齢になった芋虫たちが、ある朝、妙に騒がしそうだった。枝から枝へ、地面へ。まるで何かを探しているみたいに、せわしなく這いまわっている。 気づくと、メダカの住まう睡蓮鉢の縁に、ハーブのプランターの脇に、あるいはアスファルト...

終齢になった芋虫たちが、ある朝、妙に騒がしそうだった。枝から枝へ、地面へ。まるで何かを探しているみたいに、せわしなく這いまわっている。 気づくと、メダカの住まう睡蓮鉢の縁に、ハーブのプランターの脇に、あるいはアスファルト...
快晴。金木犀の香りが色濃く、日差しに力を感じる朝だった。今日は生涯大学での三度目の講演。午前中、資料と原稿に最後の目を通し、車で小一時間ほどの会場へ向かう。正午近く、秋の陽は容赦なく降りそそいでいた。 文化施設の最上階に...
ひとつの節目を迎えたように思う。 お茶の師匠が「そろそろ茶名を考えておいてね」と声をかけてくださった。その静かな声が、胸の奥でこだましている。 幼い頃、母は家でお茶の稽古をしていた。夕飯を終えて、まだ慌ただしい台所で湯を...
満月の翌朝。空はまだ薄暗く、少し雲がかかっていた。玄関を出ると、ひんやりとした新しい空気が肌に触れる。 娘をバス停へ送る道すがら、手を繋ぎ川沿いの小道をテクテク歩く。川向こうに熟れた柿の実が重たげに枝にぶら下がり、石垣に...
休日の午後、家族で日帰り温泉に出かけた。湯けむりの向こうに秋の陽が差す。日中はまだ夏日が続いているというのに、湯の温もりが体の奥まで沁みた。 お湯から上がり、棚のタオルを取りに行くと、何やら人だかりができていた。サウナを...
夏の名残を惜しむうちに、いつしか中秋の名月である。忙しさに紛れて空を見上げることさえ忘れていた私に、娘が言った。 「お団子つくりたい」 何度目の、お月見団子だろう。四歳のときからずっと、私の真似をして小さな手でこねてきた...
メールやチャットで挨拶も事足りる時代に、和紙と筆をとる。時代遅れになりつつある行為かもしれない。けれど、こんなにも心を澄ませて、温かな気持ちにさせてくれるとは。 パソコンで文章を推敲したのち、机の上をきゅっと拭き上げ、乾...
小学生の娘が帰ってくるなり、「お母ちゃん、おじさんがいいものくれるって!袋持っていっしょに来て」 ただいまも言わずに、私の手を引いた。 案内されるまま、川沿いの道を二分ほど下る。バシャバシャという水音が近づいてきたかと思...
「お母ちゃんのお手て、温かいね。大好き!」 朝、娘と手をつないで、いつものようにバス停へ向かう。山の朝は半袖だとブルっと震えるくらい秋が深まっている。 日陰の小道を曲がった瞬間、柔らかい陽光と金木犀の香りにふわっと包まれ...
玄関先のプランターには、バジル、ミント、パセリ、タイム、ローズマリー、ラベンダ──。 小さな庭のように、いくつものハーブが根を張っている。 始まりは、実家からもらった一本のローズマリーの枝であった。短い枝先から根が出て、...