現代造佛所私記 No.20「仏師の休日」

「始まった始まった!」

春分の日。家族そろって、居間で興奮している。

日中居間でくつろぐことはほとんどない我が家だが、今日は特別だ。

仕事の手を止めて、吉田仏師がテレビのリモコンを操作している。

「予選を開始します。入場のご準備をお願いします」テレビから女性のアナウンスが流れた。

4分割された画面に、袴姿の男女が静々と登場する様子が映し出されている。

都道府県対抗弓道大会の、Youtubeでライブ配信が始まった。

選手と共に、私たちもいそいそとお菓子を広げスタンバイ。子どもも工作をしながら、画面に目をやる。

「大前の人、いい離れだなぁ」

「的中は振るわなかったけど、引き終わった後の所作が見事だね。素晴らしいね」

「くまもんかわいい!」

「あぁーー!競ってるね!!競射がみたいなぁ!!」

「お、日置流の人がいた」

「みきゃんが袴はいてる!かわいい」

「的中確認中だからね、まだわからないよ」

粛々と進んでいく試合とは反対に、私たちは歓声をあげたり、手に汗握ったり、選手の心境を代弁しあったり忙しい。

各県それぞれの道場のしつらいも興味深く、時折カメラ目線のご当地ゆるキャラが登場するのも和む。

ところで、ここまで読まれたあなたは、こう思わないだろうか?

「弓道って、テレビ(オンライン)観戦するスポーツだっけ?」

弓道経験がある、もしくは弓道に関心がある方には共感していただけるだろうか。

この静かな、ひたすら弓を引いている映像を通して、私たちにとってはこれ以上なく楽しい観戦体験をしているのだ。

吉田仏師と私の出会いのきっかけは、東京都の弓道場だった。

吉田は「仏像と弓道さえあれば」という人で、毎日造仏と鍛錬に明け暮れている。私はしばらく弓からは遠ざかっているが、高校時代に弓道と出会って以来、細長く続けている。娘は、夫にゴム弓を習ったりしている。

吉田は、東京在住時は都の代表として国体(国民スポーツ大会)出場するほどの腕前で、高知に移住した今も、鍛錬は毎日欠かさない。昔のように、試合があるたび出かけるということは無くなったが。

私たちは、自分が経験してきた楽しさを、この選手たちの静かな戦いを通して追体験しているのだ。

観戦の合間にふと、吉田が試合に参加できない寂しさを覗かせていた。

週2回の個人練習では、的中率を順調に伸ばしているようだ。近い将来、再び試合の緊張感や高揚を味わう吉田をみたいと思う。

今年度の大会には、 吉田が知っている選手も出場していたようだ。

選手たちの気持ちの良い射を堪能した吉田は、弓具を持って再び作業場に出かけていった。