現代造佛所私記 No.21「梅の香り」

蕗のとうも旬が過ぎた三月下旬、雪雲が高知までやってきて山を白く染めた。

SNSで降雪の様子を投稿すると、NHKから「夕方の番組で取り上げたい」と連絡があった。

南国高知の3月の雪は、ニュースになるのだ。

草花には確かに春の兆しがある。だが、北風や雪、霜が根強く、まだまだ冬の気分だった。

それが突然に、本当に突然に、春が玄関まで来てくれた。

子どもの登校を見守り、帰宅した玄関先でのこと。車のフロントガラスも庭の草も霜に覆われ、コートを着込んでいた数分前から、突如として空気が変わった。

玄関の戸に手をかけた瞬間、ふんわりと梅の香りに包まれた。

香りに誘われるように、崩れた空き家の脇に立っている梅に近づく。

それまでも、枝が薄桃色になったと遠目に見てはいた。だが、あまりに冷えるせいか、「今年も咲いたなぁ」とぼんやり思ったくらいだった。

それが、今朝は南よりの風に乗って、梅が「こんにちは」と挨拶に来てくれたのだ。

(あぁ、咲いたね、かわいいね。いい香りだね…!)

伸びたいように伸びた、自由な枝を見やる。小ぶりの花弁が一斉に開いて可愛らしい。根元から突き出た若い枝に、如来の螺髪一粒のような蕾がぽんぽん、と控えている。

気づけば、風も陽光も柔らかい。あぁ春がやっときた!

昼に戻った夫にも香りを嗅がせてあげたくて、一番香りが強かった裏口につれて行った。が、すでに風向きが変わってしまっていた。

また明日、朝のあの時間に。