現代造佛所私記 No.217「銀杏の季節」
小学生の娘が帰ってくるなり、「お母ちゃん、おじさんがいいものくれるって!袋持っていっしょに来て」 ただいまも言わずに、私の手を引いた。 案内されるまま、川沿いの道を二分ほど下る。バシャバシャという水音が近づいてきたかと思...

小学生の娘が帰ってくるなり、「お母ちゃん、おじさんがいいものくれるって!袋持っていっしょに来て」 ただいまも言わずに、私の手を引いた。 案内されるまま、川沿いの道を二分ほど下る。バシャバシャという水音が近づいてきたかと思...
「お母ちゃんのお手て、温かいね。大好き!」 朝、娘と手をつないで、いつものようにバス停へ向かう。山の朝は半袖だとブルっと震えるくらい秋が深まっている。 日陰の小道を曲がった瞬間、柔らかい陽光と金木犀の香りにふわっと包まれ...
玄関先のプランターには、バジル、ミント、パセリ、タイム、ローズマリー、ラベンダ──。 小さな庭のように、いくつものハーブが根を張っている。 始まりは、実家からもらった一本のローズマリーの枝であった。短い枝先から根が出て、...
(前編まとめ) 七月上旬、ベルリンに住む青年Mさんから一通のメールが届いた。「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つ...
七月上旬のことだった。ベルリンに住む青年Mさんから、一通のメールが届いた。 「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つ...
昨年の夏、実家で採れた小夏を家族で食べた。娘が種を「ぺっ」と吐き出す。その粒を空いた鉢に埋めてみたら、やがて芽が出た。苗木は五つ。今ではどれも一尺ほどになっている。 芽が伸び始めたころ、夫と「どうしようか」と話した。地に...
鳥居の周りに、屋台のソースが焦げる匂いが立ちのぼっている。甘い焼き菓子の香ばしさに、秋草の青い匂いが混じり合って、懐かしい祭りの夜がそこにあった。 一礼して鳥居をくぐると、玉砂利を踏み鳴らしながら拝殿へと向かう。境内では...
「枝豆は娘の大好物だ。きっとそのことも覚えていてくれたのだろう。遠い異国の台所に、我が家の記憶がよみがえっていることが、なんと愛おしいことか。」 胸がジーンと温まるのを感じながら、私は慌てて返信を打った。 「Dear M...
秋空に揺れる尾花を見ながら、心はどこか青葉の季節を思い浮かべていた。 五月の風が心地よい高知に、ドイツの若き木彫家Mariekeがやってきたあの日のこと。よしだ造佛所のインターンとして仏像製作を学ぶために、初めての日本に...
玄関のチャイムが鳴った。 秋風の立ち始めたある朝のこと。扉を開けば、大家さんがそこに立っていらした。手には白いレジ袋。持ち手が中身の重みで、ぴんと張り詰めている。 「これ、栗です。どうぞ」 袋を覗けば、鬼皮に包まれた艶や...