現代造佛所私記 No.210「異国の台所から(後編)」
「枝豆は娘の大好物だ。きっとそのことも覚えていてくれたのだろう。遠い異国の台所に、我が家の記憶がよみがえっていることが、なんと愛おしいことか。」 胸がジーンと温まるのを感じながら、私は慌てて返信を打った。 「Dear M...

「枝豆は娘の大好物だ。きっとそのことも覚えていてくれたのだろう。遠い異国の台所に、我が家の記憶がよみがえっていることが、なんと愛おしいことか。」 胸がジーンと温まるのを感じながら、私は慌てて返信を打った。 「Dear M...
秋空に揺れる尾花を見ながら、心はどこか青葉の季節を思い浮かべていた。 五月の風が心地よい高知に、ドイツの若き木彫家Mariekeがやってきたあの日のこと。よしだ造佛所のインターンとして仏像製作を学ぶために、初めての日本に...
きのう、県外のお寺にて仏像の応急処置を行った。 手拭いを頭に被り、ヘッドライトをつけ、黒い作務衣に黒いパンツで堂内に足を踏み入れる。 薄暗がりの中で、だんだんと衣はほこりに白く染まっていく。何十年、いや百年単位で積もった...
正午の夏の名残の日差しの中で、完成したばかりの不動明王立像を撮影した。 一本のカヤ(榧)から彫り出されたその姿は、憤怒の相を現しながらも、どこか慈愛に満ちた気配を漂わせている。 施主が望まれたのは、子どもたちを守る本尊と...
数日前の夕方、9歳の娘が突然、THE BLUE HEARTSの名曲「リンダリンダ」の替え歌を歌いだした。 平安時代の主要な二大流派仏師集団「院派」と「円派」をもじって、「インパエンパ」。あまりに妙で、私も笑ってしまい、そ...
私自身が、一番戦争を身近に感じたのはどんな時だっただろう?と振り返る。 幼い頃から、テレビや本でその悲惨さを見聞きするたび、怖くて怖くて仕方がなかった。小学校4年生ごろまで、飛行機の音が聞こえるたび、戦闘機がきたのではな...
八十年という歳月は、人の一生を超えるほどの長さだ。 自分の寿命かそれ以上の月日の前で、忘れてはいけない、いつ起こってもおかしくない戦争というもの。 間もなく、二年かけて当工房で製作した阿吽の麒麟像の「神宝奉納祭」が、薫的...
「運慶が出たよ!」 夕方、娘が嬉しそうに私のデスクへ駆け込んできた。彼女がいま夢中になっているアニメ『ねこねこ日本史』に、大仏師・運慶が登場したのだという。 画面の中では、平安から鎌倉時代に活躍した康慶や運慶、快慶、運慶...