現代造佛所私記 No.295「取るに足らないこと」
ここ数日、どうしても優先順位を譲れないことがあった。 古タオルを雑巾に仕立てることと、台所の焦げとりである。 頭では、ほかに先に手をつけるべきことがあるとわかっている。 仕事の段取り、後回しにしている連絡、片づけきれてい...

ここ数日、どうしても優先順位を譲れないことがあった。 古タオルを雑巾に仕立てることと、台所の焦げとりである。 頭では、ほかに先に手をつけるべきことがあるとわかっている。 仕事の段取り、後回しにしている連絡、片づけきれてい...
20代のころ、海外在住の日本人作家の秘書をしていた。 拠点は東京の事務所。庶務、執筆補助、来客対応。来日時には付き添い、時に代理人の役目も担った。 その作家――ここではM女史としておく――は、世界中を飛び回る人だった。 ...
夏から秋にかけて、2株のバジルが玄関先で勢いよく育っていた。 元気な茎を切り、挿し枝にすると、あっという間に5株に増えた。瓶に挿しておけば、瑞々しい切り口から、いつの間にか白い根を突き出し、水だけで小さな芽を出す。青々と...
工房では、御安置した後、施主様にご連絡を差し上げることがある。 お像をお納めしてから1年後、5年後、そして10年ごとを目安に、「お元気ですか? お像のその後のコンディションはいかがでしょうか」とお伺いする連絡だ。 今日も...
不動明王立像の開眼と奉安を終え、少し時間が経った頃、施主さまから一通のメールが届いた。 法要の折に撮影した写真を受け取ったこと。そして、あの日のコラムを読んでくださったこと。 読み返すたびに、これまでの経過を思い出させて...
家に帰ると、すぐに三年手帳を開いた。新年一月から、2027年までの主な予定を書き入れていく。 来春から動き出すプロジェクト。数年がかりになりそうな仕事。そして、家族の節目や、毎年の行事。 ページを埋めていくうちに、先への...
手帳を前に、私はなぜこんなに迷っているのだろう。 予定やタスクを忘れたくないだけなら、クラウドで十分だ。リマインドは細かく設定できるし、いつでも、どこからでも見られる。チームで動く仕事や、締切の多い案件には、デジタルのほ...
毎年買っている手帳のレフィルを求めて、文房具店に足を運んだ。 来年の予定が一気に入ってきたのに、長期出張やインフルエンザですっかり後回しになっていた。うっかり忘れてしまわないよう、使い慣れた手帳レフィルを早く用意しなけれ...
特別養護老人ホームへ向かう車中、窓の向こうに清流が見えた。水は季節の光をそのまま映して、静かに流れていた。 施設にいる祖母を最後に訪ねたのは、今からもう14年前のことになる。 その日、面会者は私ひとりだった。四人部屋を、...
今朝は少し感慨深かった。しぶといはやり風邪を克服した娘の、十日ぶりの登校を見送ったのだ。 過ぎてみると、悪夢から覚めたような気さえする。あの高熱の日々、全身をこわばらせる発作的な咳嗽。ウイルスの粘り腰と、人の治癒力の凄ま...