お正月の気配も、いつの間にか遠のいていた。玄関前に、花がほしいなと思った。
ハーブが枯れて寂しくなったプランターに、元気の出るような色の花を植えよう。そんな思いつきに、心が少し躍る。
「あ」
カレンダーをなぞる指が、はたと止まった。土曜日。時間が取れる、と思っていた日に、小さく「土用入り」と書いてある。
土用は、土いじりが禁忌とされる期間だということは知っていた。けれど、花を植え替えられる日は、しばらくこの日しかない。
謂れを、少し調べてみようと思い立った。
土用は、「土旺用事(どおうようじ)」がつづまったもので、新しい命を育て、古い命が還ってゆく土が、最も活発になる期間のこと。
土用といえば、夏が有名だ。「土用の丑の日」として、どこへ行っても縁起を担ぐ鰻の蒲焼きが目に入る。
しかし、土用は夏だけではない。四季それぞれにあり、冬の土用には、未の日に「ひ」のつくものや、赤いものを食べるとよいとも伝えられている。
また、土いじりは禁忌とされる土用の期間にも、「間日(まび)」と呼ばれる、土を動かしてもよい日が設けられている。
土の神様、土公神。陰陽道の神で、仏教では普賢菩薩が本地とされる。
この神様が、土用の間は土を司るため、土を掘ったり動かしたりすると、災いを招くと考えられてきた。
けれど「間日」には、土公神は文殊菩薩に招かれて天上へ出かけているため、土いじりをしても差し支えないのだそうだ。
「へぇ、面白いねぇ」
仏師の夫に話すと、ふっと笑った。
冬の土用の間日は、寅・卯・巳の日。今日は卯の日。土用の間日に当たると知り、家族で花を求めて出かけることにした。
車中で、「ヒのつく食べ物って、何がある?」と投げかけると、「ひ、ひ、ひ……」と、各座席から声が上がる。
「ヒラメ」「アヒージョ?」「ピザ! あ、これは”ぴ”かぁ」「ひじき!」
早々に行き詰まり、「ヒルメシ!」で、決着がついた。
久しぶりに、仕事の絡まない外出の帰り道。園芸店に立ち寄り、安価だが元気で、カラフルな花の苗を選ぶ。
カゴの中で転ばぬよう、工房で使う作業用手袋の束をクッション代わりにして持ち帰った。
帰路の車中は、花の香りで満たされ、少し春めいていた。
スコップを手に取る。プランターの土を整え、花をいたわりながら植える。土公神さまがお留守とはいえ、「おでかけ中に、お邪魔します」と心の中で手を合わせる。
手早く植え、水をやる。花びらが水玉を弾き、夕暮れの光を映していた。


