現代造佛所私記 No.322「冬土用の間日」

お正月の気配も、いつの間にか遠のいていた。玄関前に、花がほしいなと思った。

ハーブが枯れて寂しくなったプランターに、元気の出るような色の花を植えよう。そんな思いつきに、心が少し躍る。

「あ」

カレンダーをなぞる指が、はたと止まった。土曜日。時間が取れる、と思っていた日に、小さく「土用入り」と書いてある。

土用は、土いじりが禁忌とされる期間だということは知っていた。けれど、花を植え替えられる日は、しばらくこの日しかない。

謂れを、少し調べてみようと思い立った。

土用は、「土旺用事(どおうようじ)」がつづまったもので、新しい命を育て、古い命が還ってゆく土が、最も活発になる期間のこと。

土用といえば、夏が有名だ。「土用の丑の日」として、どこへ行っても縁起を担ぐ鰻の蒲焼きが目に入る。

しかし、土用は夏だけではない。四季それぞれにあり、冬の土用には、未の日に「ひ」のつくものや、赤いものを食べるとよいとも伝えられている。

また、土いじりは禁忌とされる土用の期間にも、「間日(まび)」と呼ばれる、土を動かしてもよい日が設けられている。

土の神様、土公神。陰陽道の神で、仏教では普賢菩薩が本地とされる。

この神様が、土用の間は土を司るため、土を掘ったり動かしたりすると、災いを招くと考えられてきた。

けれど「間日」には、土公神は文殊菩薩に招かれて天上へ出かけているため、土いじりをしても差し支えないのだそうだ。

「へぇ、面白いねぇ」

仏師の夫に話すと、ふっと笑った。

冬の土用の間日は、寅・卯・巳の日。今日は卯の日。土用の間日に当たると知り、家族で花を求めて出かけることにした。

車中で、「ヒのつく食べ物って、何がある?」と投げかけると、「ひ、ひ、ひ……」と、各座席から声が上がる。

「ヒラメ」「アヒージョ?」「ピザ! あ、これは”ぴ”かぁ」「ひじき!」

早々に行き詰まり、「ヒルメシ!」で、決着がついた。

久しぶりに、仕事の絡まない外出の帰り道。園芸店に立ち寄り、安価だが元気で、カラフルな花の苗を選ぶ。

カゴの中で転ばぬよう、工房で使う作業用手袋の束をクッション代わりにして持ち帰った。

帰路の車中は、花の香りで満たされ、少し春めいていた。

スコップを手に取る。プランターの土を整え、花をいたわりながら植える。土公神さまがお留守とはいえ、「おでかけ中に、お邪魔します」と心の中で手を合わせる。

手早く植え、水をやる。花びらが水玉を弾き、夕暮れの光を映していた。