「まもなく着陸態勢にはいります」
機内アナウンスに、はっと意識が浮上した。気流の影響で揺れが続いたフライトだったようで、機内サービスも省略されたという謝罪の声が流れている。
「もう着いたのか」
ゆっくり高度を下げる機体に身をあずけ、まどろみながらシートにずぶずぶと沈み込む。能登発羽田経由、高知行きの便。私も夫も、正体もなく眠り込んでいたようだ。
朝に見た能登の山々は深い紅葉に染まり、対して高知の山は一面の緑。海沿いの町という共通点を持ちながら、はっきりとした山の色の対比を面白く思う。
高知はずいぶん青々としているなあ。帰ったらすぐレポートに取りかからなければ。
景色に焦点が合うにつれ、日常の気配がまどろみを払っていく。
私たちは、昨年に続き、国の文化財レスキュー事業の一環で、能登半島地震で破損した仏像の応急処置をするため、被災地へ派遣された。
初回は手探りだったが、今年は事前にワーキンググループでのビデオ会議や活動報告会もあり、現地入りした作業者同士での知見も共有されたことで、現場での段取りも処置も、よりスムーズだった。
今回は、工房単体での動きに加え、別のワーキンググループとの協働もあった。
等身大より大きな尊像や、複雑な形状をした、ずっしり重い本尊様を、文化財版アベンジャーズのようなチームでレスキューする、というミッションである。
それぞれの技量を掛け合わせながら、役割を分担し、その場で判断しながら慎重に、時には大胆に解体し、何度も石段を往復して部材を運び出し、安全に保管できる場所まで届けにいく。
夫は、使い慣れたピンクの持ち手のバールで、熟練仏師の技で大きな仏像の解体に精を出した。私はまるで手術の時の器械出し担当のように、作業を予測し脚立のすぐそばで道具を手に控えていた。
「ピンクバール」
「はい」
執刀医のように手を出す吉田に、さっと渡す。
耳慣れない道具名に、他のアベンジャーズも関心を示した。昨年まで2m級の仁王像を一人で解体修理した経験が、吉田の手際に現れていた。
作業完了後には、誰が言い出したのか「ピンクバールの吉田」と通り名までついていた。
誰もが自分の役割をまっすぐに果たし、知恵と経験を持ち寄って進められたその作業は、ほぼ予定通りの時間に完遂することができた。プロ集団の協働は、本当に見事というほかなかった。
作業後に撮った写真には、埃と泥にまみれた体の上に、清々しい笑顔がのっかっている。
まだぼんやりとした頭で、モバイルの板にうつる面々を見ていると、すでに懐かしさが込み上げた。
ふと窓の外に視線を戻すと、見慣れた高知の海辺の街並みが近づいてくる。
その上に、くっきりと虹が架かっていた。
アイキャッチは、2025年11月25日の「のと里山空港」にて


