現代造佛所私記 No.214「ベルリンからの便り(後編)―小さな芽から」

(前編まとめ)
七月上旬、ベルリンに住む青年Mさんから一通のメールが届いた。「あなたの仕事が木工家具とは直接関係がないことは承知しています。無礼な申し出と思われないかと案じておりますが、日本で木工や家具製作の実習先を見つけることは大変難しく……」

Homo Faber Guideを通じて当工房を知り、専門の違いを承知のうえで、それでも勇気を出して送ってくださった丁寧な英文だった。日本文化への敬意や禅への関心に触れた経歴書も添えられ、真摯な思いが行間に滲んでいた。

ちょうどその直前、龍笛の稽古仲間から地元の家具職人さんのリーフレットを偶然いただいたばかりで、まるで見えない糸がすっとつながるような符合を感じた。

ベルリンと高知で何度かのメールのやり取りを重ねつつ、高知で受け入れの可能性を探ることになった――。

最終的に、家具職人さんのつながりを通じて、四万十町のご家族がRさんインターンシップを前向きに検討してくださることになった。

MさんとRさんをお繋ぎして、あとは詳細を詰めてもらう間に、すっかり秋の気配が濃くなった。

数日前の明け方、ベルリンから久々にメールが届いた。

「フライトも予約しました。夢が叶ったような気持ちです。これもすべて、あなたのおかげです」

無事、話がまとまったらしく、丁寧にMさんからご報告とお礼のメッセージが届いた。

画面に浮かぶ言葉が、そのまま彼の笑顔となって広がるようだった。私も嬉しくてたまらなかった。

考えてみれば、この五月にはドイツの若き木彫家Mariekeが当工房を訪れたばかりだ。彼女とベルリンの彼に直接のつながりはない。けれど立て続けにドイツから職人たちが高知へ向かってくることに、時代の呼吸とご縁の妙を感じずにはいられない。

ベルリンのMさんの文中には、こんな吐露もあった。

「一月からずっとインターン先を探してきました。でも前の候補がキャンセルになって、もう夢は叶わないかもしれないと覚悟したんです」

必死に探してこられた日々を、ようやく明かされた。道筋が見えてから静かに告げられた慎ましさに、胸を打たれた。

そうだ、彼は国際インターンを検討しやすいようにと、詳細な資料を添えて、最初から最後まで敬意と誠意ある姿勢を貫いていた。支援機関からの奨学金があり、受け入れ側の負担がないこと、できること・できないこと……。ご自身の思いだけではなく、具体的な基本情報を網羅したメールには、彼の成熟した人柄が窺えた。

国際交流といえば、大きな制度や華やかな舞台を思い描きがちだ。けれど実際には、もっと小さなきっかけから芽吹くのかもしれない。

たまたま子どもがプッと吹き出した種から、柑橘の枝が芽吹き、そこへ蝶が卵を託し、その成長を人が愛でる。そんな一つ一つの「たまたま」が重なるように、人と人とがつながっていく。そこから新しい物語が始まる。

高知の山々に育まれた林業、木工、そして仏像彫刻。その現場に遠い国の若者が加わることで、また新しい風が吹き込むだろう。ものづくりの形は少しずつ変わり、豊かになっていく。

もしかすると彼は、インターンのあいだ当工房にも顔を見せてくれるかもしれない。その日を思うと、英語を少しは復習しておかねばと苦笑しつつ、返信のメールを書き終える。

「I imagine autumn in Berlin must be beautiful as well.」

すべての関係者にとって、この秋、良い時間となることを願った。