現代造佛所私記 No.149「麒麟の瞳」
薄暗い作業場に、蝉しぐれが降り注いでいる。日差しの眩しい午後2時だというのに、ひぐらしまでが泣き始めて、時間の間隔を狂わせる。 ふと、突然、私の周りが無音となった。吉田仏師が麒麟像の目に、金の虹彩を描き終えたときだった。...

薄暗い作業場に、蝉しぐれが降り注いでいる。日差しの眩しい午後2時だというのに、ひぐらしまでが泣き始めて、時間の間隔を狂わせる。 ふと、突然、私の周りが無音となった。吉田仏師が麒麟像の目に、金の虹彩を描き終えたときだった。...
海岸線の国道を、西に向かって車を走らせる。 予定より2時間遅れの出発で、少し心が泡だったままハンドルを握る私の視界を、ふと広げてくれたものがあった。 日の入りと共に、すうっと姿を現した細い月。 「綺麗だねぇ!」娘が後部座...
夏の夕暮れは、独特の不思議な空気を帯びる。いつもは閉じている過去との境目がポッカリ通じたように、黒く緩い夜風の向こうに手を伸ばせば、子どもの頃の自分に触れられそうな気がする。 今宵の六畳間は、扇風機の微かな音とエアコンの...
我が家の玄関先に並ぶ大小様々なバケツ。それはいつしか私にとって「水中の静かな宇宙」となった。 今回は、現代造佛所私記No.134で登場したメダカたちの後日談だ。 その後、彼らは元気に泳いでいる。ささやかながらも確かな命の...
実務でAIを活用するための、経営者向け研究会に参加した。 当工房ではここ1年ほど、AIなしでは事務方は回らなくなっている。 日本の企業における生成AIの導入率は、2025年時点で2割から3割に達し、この1年でも急速に普及...
400年の伝統を受け継ぐ工芸の職人さんが、はるばるこの高知の山あいにある、私たちの工房を訪ねてくださった。 都にほど近い地で、長年、歴史の重みを背負いながら伝統技法を守り抜いてこられた方だ。 私たちの工房が歩んできた道と...
2023年10月から2025年3月まで、高知新聞の「閑人調」にて、毎回520字のエッセイを綴らせていただいていた。 その連載を読んでくださっていた生涯大学の学生さんが、私を講師として推薦してくださり、今年1月に初めての講...
「ことばの種、お預かりします」と呼びかけて始めた、1000日コラム参加型の企画が、ひとまずの区切りを迎えた。 選ばれた五つの言葉をもとに、一日ごとに一篇ずつエッセイを書いていく。初めての試みにほんの少し緊張していたが、い...
1000日コラム執筆チャレンジの初企画、「ことばの種、お育てします」。初めての試みに、この夏、取り組んだ。 この企画は、フェイスブックで「ことばの種」を募り、抽選で選ばれた五つの“種”をもとに、エッセイを綴るというもの。...
湯気に味噌の香りが乗って、ふわぁっと鼻腔を満たした。 深夜1時。朝の味噌汁を、前夜のうちに作るのが習慣になった。 出汁に味噌を沈め、菜箸で筋を入れる。顔を近づけると、言葉やイメージの断片でいっぱいになった頭が、ふっと軽く...