現代造佛所私記 No.168「再会と始まり」
少し雲の多いお盆。その短い晴れ間に、愛媛からあるご家族が、工房を訪ねてくださった。 家族6人を乗せた、山間の険路を越えてきたであろう、よく磨かれた大きな車が眼前に現れたとき、娘と顔を見合わせて思わず歓声をあげた。 かつて...

少し雲の多いお盆。その短い晴れ間に、愛媛からあるご家族が、工房を訪ねてくださった。 家族6人を乗せた、山間の険路を越えてきたであろう、よく磨かれた大きな車が眼前に現れたとき、娘と顔を見合わせて思わず歓声をあげた。 かつて...
正午、父が短く「黙祷」と告げた。実家の居間で、その声に合わせて背筋を伸ばす。目を閉じると、夏の光がまぶたの裏に赤く滲み、遠くで蝉が途切れ途切れに鳴いているのが聞こえた。 やがて、あたりは不思議なほど静まり返った。時計の秒...
昼下がり、実家の和室でひとり龍笛の稽古をしていた。 床の間にはお盆の飾り。金蘭の敷物に、大日如来を中心とした十三仏の掛け軸、位牌や果物、お菓子が並んでいる。ほのかに漂うお線香の香りが、しっとりと空気を満たしていた。ここは...
今日も、家事や仕事のタスクが雪崩のように押し寄せ、マルチタスク状態が発動している。 あれもこれも片付けなくてはならない。「それはこの辺で切り上げておこう。午後2時にパッキングして、3時に出発。18時までには目的地に到着し...
千日コラムを始めたのは、仏師である夫と共に営む工房の記録を、日々の暮らしごと残していきたいと思ったからだった。 仏像のこと、修理の現場、祭典の裏側——最初はその枠の中で語るつもりだった。けれど日を重ねるうちに、工房で交わ...
吉田仏師は、刃物研ぎの達人だ。だが、私は彼に研ぎを習ったことがない。結婚以来、アイキャッチ画像にもある吉田の後ろ姿を見ながら、見ようみまねで台所の包丁を研いできた。 今朝、サラダ用のトマトを切ろうとして、刃が思うように入...
若き空海が、唐へ渡る前、室戸(むろと/高知県)の御堂で修行していた。そこへ、魔物たちがわらわらと集まり、修行の場をかき乱したという。 そんな場面が描かれているのが、弘法大師空海の一生を描いた「弘法大師行状絵巻」だ。 ——...
正午を前に、草むらの片隅に、檜扇(ひおうぎ)が咲いていた。橙に斑の入った花弁が、まだ暑さの芯の残る夏の光を受けて輪郭を際立たせ、茎は迷いなく伸びている。控えめながら孤高の佇まいを感じるその姿は、茶室に活けると不思議と優雅...
二年かけて彫り進めてきた麒麟像が、ついに完成した。 硬さの手強いケヤキに、重ねてきた一刀一刀。 その像を、今日、神社の拝殿に据える。 境内では、祖霊殿の建立が進行中で、現場には大工の方々が入っていた。 設置予定の蟇股の脇...
娘がずっと行きたがっていた、市内の図書館で開催された「まんがBASE」のイベントに足を運んだ。 会場は、空調のきいた図書館の2階の一室。受付で「大人の方もどうぞ」とやさしく声をかけられ、子どもの付き添いのつもりだった私は...