現代造佛所私記 No.204「150年のお祝い(前編)」
九月の陽射しは、まだ容赦がない。けれど神社境内を渡る風に、ふと秋の匂いがした。昨日の激しい雨が嘘のような快晴である。空の青さが、今日という日を寿いでいる。 通夜殿前に、丸イスが並んでいく。緑のテントが張られ、舞台が整って...

九月の陽射しは、まだ容赦がない。けれど神社境内を渡る風に、ふと秋の匂いがした。昨日の激しい雨が嘘のような快晴である。空の青さが、今日という日を寿いでいる。 通夜殿前に、丸イスが並んでいく。緑のテントが張られ、舞台が整って...
明日、ある神社のご本殿創建150年を記念した雅楽奉納演奏を控えている。 今日は、出先での用事を済ませ、その神社にお詣りに出かけた。 静かな境内をご本殿の方へ足をすすめると、ぽつ、ぽつと雨が降り出した。この天気のせいだろう...
仕事の打ち合わせに向かう途中だった。 家の近くのキャンプ場のカフェへ歩いていくと、見慣れない県外ナンバーの車がこちらに向かってくる。観光客かと思いきや、カフェを通り過ぎ、さらに先へ進もうとしている。この道の先にあるのは、...
吉田仏師の仕事部屋に置かれた道具箱。久しぶり(と言っても2週間ぶりぐらい)にふたを開けてみると、思いがけない光景が広がっていた。 刃物が並ぶ桐箱の隅に、アリたちが巣をつくり、卵を育てていたのだ。その様子が映ったスマートフ...
きのう、県外のお寺にて仏像の応急処置を行った。 手拭いを頭に被り、ヘッドライトをつけ、黒い作務衣に黒いパンツで堂内に足を踏み入れる。 薄暗がりの中で、だんだんと衣はほこりに白く染まっていく。何十年、いや百年単位で積もった...
高知市内でカフェを営むYさんが、山上の工房まで龍笛のお稽古に訪れてくださった。 ミュージシャンとして幅広く活動されていた方で、囚われのない自由さで音を紡がれる。ご縁あって一緒に笛を稽古するようになって、気づけば一年が経っ...
黒一色の革に、小さなうさぎのモチーフがひとつ。 出張の荷造りをしていて、ふと手が止まった。長年使い続けてきた名刺入れが、なぜかいつもと違って見えたのだ。一見シンプルだが、そこはポール・スミス。さりげない遊び心が、持つ人の...
朝の九時半から夜の七時半まで、まる一日を温泉で過ごした。 夫は北陸の温泉地に生まれた人である。その血筋なのか、娘も壺湯から炭酸泉へと渡り歩きながら、実に自然体で湯を楽しんでいる。私も、薬湯に始まりサウナ、水風呂へと、体の...
正午の夏の名残の日差しの中で、完成したばかりの不動明王立像を撮影した。 一本のカヤ(榧)から彫り出されたその姿は、憤怒の相を現しながらも、どこか慈愛に満ちた気配を漂わせている。 施主が望まれたのは、子どもたちを守る本尊と...
ただ紙をやぶるだけで、目を輝かせていた赤子の頃の娘。 古今東西、紙が破れる様子にゲラゲラ笑う赤ちゃんの動画はたくさんある。力をある一定方向に加えると、紙は音を立てて裂けていく。その驚きと手応えの妙に、人は心を奪われるのだ...