現代造佛所私記 No.406「”こっち”を選ぶ」

「がんばりたいこと、書くの難しい」

娘がぽつり。

いつもは、「かけ算を頑張りたい」、「給食は残さず食べる」といったことを学校の授業の中で書いていたらしい。

今年はそれが作文の宿題として出され、とっかかりが見つからないのか、娘は手をつけないで過ごしていた。

ゲームをしたり、お絵描きをしたり。明日出かけるから今日のうちに目処をつけるといいよ、と言っても、「うーん」と歯切れの悪い返事。

聞いてみると、「勉強をがんばるって書こうかな…うーん」。

これまでの書き方や考え方では、しっくりきていない様子が窺えた。

「お母ちゃんの助けが必要?」と聞くとうなづいた。

そこで、看護師時代にチームの目標管理をしていた経験を、応用してみることにした。看護管理のフレームに厳密に沿っていたかはわからないが、当時のチーム運営では目標達成もでき、メンバーの自己効力感も高まって、よい評価をいただいた。娘と、試してみる価値はあると思った。

私は、冷蔵庫に貼っていた「学校だより」を開いた。「目指す児童像」のところを一緒に読み、学校の目標と娘の在りたい姿が重なるところを探していくことにした。

——「主体的に学ぶ子」だって。どんな勉強を頑張りたいと思う?「漢字の書き順!」。
——そうか、いいね!正しい書き順を覚えたら、どんな未来が待ってるかな?「恥ずかしい思いをしなくていい。そしたら、漢字が好きになりそう!」。
——四年生で新しく学ぶ漢字は202字だって。これまで習った漢字も含めて、最低いくつ書けるようになりたい?「200個!」
——よし!すごいね!じゃあ、そうしよう。応援するね!週に4文字くらいやっていけばいけそうだね。できそう?「うん、できそう!ワクワクしてきた」

——次は、「対話ができる子」だよ。どんなイメージが浮かぶ?「自分から元気に挨拶してる!」
——いいねぇ。気持ちがいいね!そんなYちゃんになれたら、みんなどんな顔をしてるかな?「そしたらねぇ、みんな笑顔になるよ」

——最後は、「多様な見方・深く学ぶ子」だよ。「じゃあ、去年の自由研究の接着剤、もうちょっとやりたい」

後から調べてみると、この会話の流れは自己決定理論という心理学の研究に沿っていた。人は自分で決めた目標にしか本当の意味で動機づけられない、という理論だ。また、学校の目標と個人の目標をすり合わせる構造は、企業でも使われるOKRというフレームワークそのものだった。

「今、分かれ道の前にいるとしよう。がんばりたいことにチャレンジする未来と、しない未来、違って見える?どっちを選びたい?」「こっち!チャレンジする方!」「いいね!お母ちゃんも応援するね!じゃあね、がんばりたいことがどれくらいできているか、いつ振り返りしよっか?」「うーんと、三つの学期の終わりに!」

ぽんぽんと会話が進む。

三つがんばりたいことが出て、「作文、書けそうかな?」と聞くと「できそう!書いてみる」と黙々と机に向かった。

本人曰く、いつもはなんとなく思いついたことを並べていたけど、今日は大きな目標を書いて、そのなかで細かくやることを一つずつ書いていけた。なぜそれに取り組んでみたいかという理由と、200という数字も書けた。

定量的な要素が入ったのは、これまでなかったという。目標と、行動計画と、振り返りの時期まで設定できたのは、娘にとって新しい世界で、高揚があったようだ。

でも、多分、娘はすぐに忘れるだろう。だけど、母と対話しながら自分の意思を認識し、作文の宿題として成文化できた。

忘れていたら、一学期の成績表渡しのタイミングで、一緒に振り返れたらと思っている。