「好きなだけ取っていき。これも、それも」
花畑を、スイスイ歩くご婦人。明日の雅楽演奏会で挿頭(かざし)にするための花材を相談したところ、すぐに丹精されている庭を案内してくれた。あっという間に、私の手には花や葉がずっしりと重く垂れた。
気軽な演奏会だから、皆それぞれの衣装で。春だから草花を身につけて。
客演の伶人さんにも、雲中好みにあしらっていただこうと、数日かけて花屋を何軒かのぞいてみた。かわいい春の花でいっぱいだったし、大好きな花たちで心躍った。だが、演奏会を共にすることを考えると、なんとなくしっくりとこない。
そうだ、山の花がいい。少し傷んでいても、野趣が濃くとも。
我が家の前の椿は、まさに咲き始めで生命力に溢れている。みずみずしい花弁も、蕾も可愛らしい。少し小道を下った先の主のいない石垣に佇む南天は、青く艶やかで美しい。ずっしりと赤い実がなんとも豊かだ。本番という不確定な未来に気掛かりはつきないけれど、いつも音を聞いてもらっている花たちがそばにいると、何処か心強い。
夕方、ご婦人の家の前を通る。
さまざまな花が春風に揺れていた。夕飯時だったけど、玄関に声をかけてみた。何度か呼ぶと、奥の方から「はぁーい」と声がして、ご婦人が出迎えてくれた。私が雅楽をしていることを、彼女はよく知っている。
そして、私たちは、花畑にいた。
夕暮れの光の中で、木瓜の薄紅が、ぽうっと柔らかく浮かんでいる。柔らかい土が足裏からどっしりと私の体重分押し上げてくる。婦人とすれ違いざまに、草木がふるふると踊る。おかえり、今日はどこ行っちょったん?よう休みよ、そんなふうに語りかけられているようで、しばらくそこを動けなかった。
花の精に心奪われていると、婦人の声に我に帰った。
「キャベツも持っていって。」


