現代造佛所私記 No.363「マレー熊のいるところ」

桜の開花予想が出た雨の夜。街灯もまばらな海辺の国道を東へ走る。ワイパーが、規則的に右、左と往来する。

店の明かりはすでに消え、視界は良いとは言えない。けれど、目的地へは迷いなく進む。何度も遊びに行った、高校からの友人の家。実家への帰省の途中で立ち寄り、来月の雅楽演奏会のチラシを渡して、すぐ帰るつもりだった。

彼女もその心づもりでいてくれたのだろう。到着すると、夕飯どき、しかも雨なのに、車の前まで小走りで来てくれた彼女。彼女はずっと、そうだ。

玄関に行ってもいい?娘も渡したいものがあるみたいやき、と言うと、「時間大丈夫?」と言いながら、目にも止まらぬ速さで玄関に消え、双子の名前を呼んでいた。そしてまたテレポートしたように現れ、まず紙袋をどさりと持たせてくれた。マレーシアのお菓子が、ぎっしりと入っていた。

「マレーシア?マレー熊がいるところ?」と娘。「そうそう、マレー熊がおる国。」友人が応じる。

袋を覗くと、賑やかな色と文字が溢れている。漢字、英語、マレー語、ハングル。赤地に白抜きの丸い子どもの絵、鮮やかな黄色の魚。「Yちゃんが読めるのはどれかな?」彼女が娘に袋を一つ差し出した。これは私がマレーシアにいた時ハマったお菓子、これは大人の飲むコーヒー、と一つひとつ説明してくれた。

どういう経緯で手に入れたのかは、語られなかった。以前、しばらくマレーシアに暮らしていた彼女。そのある一定期間の互いのことは、実はよく知らない。

娘たちは、玄関を離れなかった。赤子の頃から一緒に育った双子の娘さんと、うちの娘。雨が降っていることも、移動の途中であることも忘れて、声が弾んでいく。お泊まりの相談、将棋を教える約束。大人二人が交わしたよりも、ずっとずっと多くのことを話していた。

双子の一人Aちゃんが、雅楽と弓道に興味を持っていると聞いていた。Aちゃんに、夫は弓道のことを、私は雅楽のことを、少し話したりしている。友人も、そういう交流を喜んでくれているようだ。

娘は、雛あられを二袋持ってきた。双子だから、同じものを一つずつ。

娘たちはどんどん大きくなる。私たち二人が出会った年齢に、少しずつ近づいていく。

十五歳から、三十年以上。

帰りの車中、マレーシアのお菓子の袋に、娘のおもちゃも一緒に入って、揺られていた。