娘が言葉を話すようになってから、一番口にしている言葉がある。一日何度も、しかも脈絡なく。彼女にとっては、溢れる心を最大限に表してくれる言葉らしい。
朝、むにゃむにゃとまだ目が覚めきらないうちから。手を繋いでバス停まで歩く道で、何度も。いってらっしゃいのハグの後に。帰宅してドアを開けるなり。一緒に入るお風呂で、連発。おやすみの後にも、もう一度。そのほか、なんでもない時間にも、ふいに。
カウンターで数えたことはないが、優に1日100回は超えているのではないだろうか。
2歳ごろの舌足らずなお喋りの頃から、少しおしゃれが気になってきた最近まで、変わらずに。
その言葉は4文字。「だいすき」。
彼女と同じ年齢のころ、こんなに真っ直ぐな気持ちを言葉で誰かに伝えたことが、あっただろうか。多分、私にはそんな言葉がなかった。友人やテレビに影響されて、あまり美しくない言葉を使ったりもしていた。
娘は、あまりにその気持ちが溢れすぎて、今夜はこうも言った。「体に”だいすき”いっぱいだから、半分こしよ」「このきもちが世界中に広がったら、戦争はなくなるのに。多分ね。”だいすき”って、外国語では何ていうんだろう?」
私は、その4文字をしっかり受け止めて、同じように返す。だから私も、一日に何度もその言葉を言っている。人生で、これほど誰かに向かって言い続けることになるとは、思っていなかった。
娘はいつか、ほかの誰かに同じように言う日が来るかもしれない。それでも、娘がこれまでの人生で贈った「だいすき」を数えてみれば、私はベスト3には入るだろうと自負している。
だけど、娘はこうも言う。
「だいすき、だから死なないで」
いつか必ず来る別れを知っている。だからこそ、彼女は何度も何度も伝えようとするのではないだろうか。私もそうだ。あなたと会えなくなる日が来ることを知っている。だから、何度でも言わせてほしい。
私は彼女の目を見て、言った。「『死なないで』っていうとね、死ぬことを考えてしまうでしょう?だから『長生きしてね』にしてみたらどうかな?
娘はパッと顔を輝かせた。「本当だ!Yちゃんにも長生きしてねって言って!」
さて、娘の世界平和プロジェクトに、母も便乗させてもらうことにしよう。 ここに、記しておく。


