現代造佛所私記 No.359「信じ、信じられ、手渡していくもの」

朝からいろんな鳥の声が聞こえる。春の到来を歌っているの?と森の方を見て頬が緩んでしまう。

「あぁ、鳥の声はこんなに可愛らしかっただろうか」とちょっと驚く。私も春が嬉しいのかもしれない。

特にウグイスは、一週間のうちに随分と鳴き方が上手になった。その上達ぶりを健気に思う。娘と「上手になったね」と顔を見合わせる。娘は、連休中の自主学習に「鶯の鳴き声の種類」をノートにまとめた。

梅の花がさかりで、春風にのってどこからともなく香りが漂ってくる。土からは、複雑な土壌の匂いがのぼってくる。ここでは、車の音も、信号の音も、人の声もしない。

吉田仏師の作業場のそばの小川では、ご近所の猟師さんたちが鹿肉をさばいていた。夫が骨つきのもも肉をいただいて帰ってきた。

ありがたい一方、「さて出発まで間がないぞ」と時計を見やる。しかし、この陽気では鹿肉はあまり置いておけない。冷蔵庫も大きな肉塊を入れておけるスペースはない。

早々に腹を括る。台所に新聞紙をしき、うでまくり。十五分と経たないうちにさばいてブロックにし、ジッパー付きの袋に小分けにして冷蔵庫へ。明日、挽いて冷凍する段取りだ。

鹿肉をさばく直前、私はPCに向かってコードを書き換えていた。

ちょうど24時間前には、首都圏にお住まいの音楽家さんと、液晶越しにお話ししていた。

お相手は、新屋賀子さんとおっしゃる音楽家で、人は「響きの人」ともいう。彼女が所属する音楽グループのホームページ立ち上げのご相談を、昨年秋にお受けした。その際、ご自身のサイトもリニューアルしたいとのことで、ワードプレスの使い方をざっくりお伝えし、ドメインの移管などもご一緒した。

飲み込みの早い賀子さんには、今後の展開の可能性をお話ししていた。その実装と、いくつかのご相談をZoomで確認する時間だった。

ボタンの位置、追尾機能、別サイトへのリダイレクト、外部コラムの読み込み。ひとつひとつ、現象とご希望を確認していく。

ボタンについては、スクロールに追尾させたり目立つ場所に配置することが、賀子さんの音楽活動や世界観を伝えるホームページとして、ベストとは思えなかった。

そのことをお伝えすると、「たしかに」と賀子さん。管理画面を共有していただき、その場でシンプルな方法をご提案して、賀子さんご自身の手で直していただいた。しっくりきたご様子が私も嬉しかった。

リダイレクトの件とコラムの読み込みは、ミーティング後に作業することにした。管理画面に入るとすぐ原因がわかり、解消した。プラグインをふたつ導入して、賀子さんがご自身の発信を続けながら、できるだけクリエイティブな時間を確保できるように、手数少なく更新できる方法を整えた。

どこまでどのような形で入るのがベストだろうか。

いつも、その後のことを考えながら決めている。今回も、賀子さんが、その世界観をこの先ご自身でも育んでいけるように、という意図が、踏み込む深度を決めている。

翌朝、プラグインの様子を見ていると、微妙な挙動があった。出かける前にコードを書き換えて試していると、鹿肉がどんと届いたのだった。

山の暮らしも、六年目になる。

鹿の命をいただくとき、残さずいただくことを考える。家族の体を養うことで、誰かの力になることで、その命を弔いたいと願う。

木の命をいただき、仏像を造り、直し、お納めするとき、その後の長い長い護持の時間を考える。ホームページを整えるとき、長期的にご自身で花をお世話するように育てていけるかを考える。

同じことを、していたのかもしれない。

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