現代造佛所私記 No.326「冬土用、未の日」

工房でのとある法要を終え、お客様を車で十五分ほどのお寺へご案内した。 その山門には、一昨年修理を終えた仁王様がおわす。

共に歩く道すがら、小川には、つんと顔を出した小さな蕗のとう。境内には紅梅が咲いていた。

明日からまた冷えるというのに、今日は春のようである。

小さな梅の花に近づくと、なんとも高貴な香りが鼻腔を満たし、思わず目を閉じた。

ふと顔を上げると、枝に立派なミノムシが、まっすぐにぶら下がっている。お客様が「まぁ、大きいねえ」と微笑まれた。つられて頬が弛む。

「ミノムシは、今すごく減っているらしいよ」

夫が言葉をたす。そうか、山の暮らしでは身近だけど、世の中ではそんな状況になっているのか。紅梅より、ミノムシに惹きつけられる。

ミノムシをじっと見るのは、ひさかたぶりだ。見事な防寒の装いに、感心する。紅色の花弁と、どこかの古民家のような色味のミノムシの対比が、いかにも冬土用らしい。

そうだ、今日は冬土用の未の日だ。

ヒのつくもの、赤いものを食べるとよいのですよね、と言葉を交わしながら、日が傾く前にとお見送り。お客様とご家族様の穏やかな日々を祈りながら手を振った。

同じ県内にいながら、いつまたご一緒できるかわからない。 その一期一会。

和やかな一日であった。