朝、目を覚ますと一通のメッセージが届いていた。
昨年、演奏会でご一緒して以来、折に触れて交流のある香川の雅楽仲間が、我が家から目と鼻の先のキャンプ場に滞在しているという。
秋の合同稽古でお越しになった際、「次は泊まりで来たい」と思ってくださったとは伺っていたが、まさかこんなに早く実現されるとは。彼女の行動力に驚かされた。
寝正月になりそうな一日だったが、その知らせに、家族そろって飛び起きた。
待ち合わせたカフェで、名物の山菜うどんをすすりながら、自然と雅楽の話になる。
楽曲のこと、楽器のこと、近況のこと。話は尽きない。正午を過ぎた頃、
「うちで、合奏しようか」
意外にも、しばらく演奏から遠ざかっていた夫が、言い出した。
こうして我が家での「初音遊び」が始まった。
「わぁ、木の香りがする」 玄関をくぐるなり、彼女が声をあげた。
床の間に据えた木のしつらえや、夫の作務衣に染み込んだ香りだろうか。 私たちにはすっかり馴染んでしまって、気づかなくなっていた匂いだ。
客人も数えるほどの山奥の集落、さらにその奥座敷にある我が家だ。
今年最初の来訪者に、猫も出迎えに伸びをしながら現れた。
夫は、さっそく楽箏の絃合(おあわせ;調弦)に取りかかる。そのうち、譜面を確かめながら、演奏曲のおさらいを始めた。
そのあいだ、友人はプラスチックの篳篥をためし吹き。 調子づいてきたかと思うと、突然のチャルメラ。思わず皆で笑ってしまう。
やがて、楽箏と龍笛で、 平調音取、越天楽、陪臚。
年のはじめに我が家で生まれた雅楽器の音色は、爽やかに澄んでいた。 「初音」という言葉が、これほど似合う時間もないだろう。
私たちが雅楽に遊ぶ「雲中奏楽団」は、霞たなびく土佐の山奥で生まれた、 雅楽を愛し、楽しみ、神仏に楽をお供えする集いである。
神仏との関わり、自然の巡りが暮らしと地続きにあるように、雅楽ともまた、そのように関わっている。笑いの絶えないこの日の合奏も、まさにその延長にあった。
さて、まだ明るいが、遠方に帰宅する彼女を送り出さねばならない。
名残を惜しみながら、駐車場で見送る。 車が見えなくなるまで、手を振り続けた。
また、近いうちに一緒に。
そう心の中でつぶやきながら、静けさを取り戻した家に戻る。 木の香りと、音色の余韻のような微細な振動が、かすかに残っているようだった。
アイキャッチは、父親の大きな箏爪をうまく使って、平調音取をつまびく雲中奏楽団の団員です笑。


