工房の年越しは、いつものリズムに、氏神さまへのお詣りや、大掃除、おせちづくりなどが加わり、年の瀬らしい活気を帯びる。
ひとつひとつの支度が、年の終わりという節目を、静かに際立たせてくれる。
台所でおせちが完成する頃、夫と娘が、来る年の干支をかたちにしていた。
小さな粘土の塊に、二人で黙々と息を吹き込むその光景も、いつの間にか、我が家の大晦日の風景となってきた。
改めて、新年の床の間飾りを微調整する。
祭壇には、工房の彫房四宝——木材、ノコギリ、彫刻刀、砥石。
そして、それぞれが来年、心に据えて取り組みたいモチーフを、神さまにお預けする。
「新しい年も、さらに研鑽を重ねてまいります」と、静かに決意を添えて。
昼下がりには、家族そろって氏神さまへお詣りに行った。
一年を無事に終えた安堵と、新年への希望が入り混じる、なんとも言えない心地よさに身を委ねながら、今年最後の龍笛をお供えした。
この一年は、決して平坦ではなかった。
だが、振り返ってみれば、たしかな足跡が残っている。
三月、1000日コラムを始めた。
毎日、暮らしと仕事を見つめ直す営みとなった。
言葉にすることで、自分の未熟さや偏りにも何度も突き当たったが、同時に、いつも読んでくださる方々が、温かく見守ってくださっていることも知った。
仏像製作の仕事でも、大きな節目を迎えた一年だった。
戦後八十年に向け、二年前に高知県遺族会の代表の皆さまにノミ入れをしていただいた、薫的神社の麒麟像が完成した。
ノミ入れしてくださった皆さまと再び集い、御神事の場で完成を共に喜べたことは、工房としても、一個人としても、深く胸に残る出来事だった。
個人のご自宅のご本尊、不動明王像も完成した。
開眼法要の後、ご自宅へ伺い、お子さまたちに見守られながら、お厨子にお納めしたあの時間。
像は、人の暮らしの中でこそ、仏さまになるのだと、あらためて教えられた。
仏像修理の現場では、無事にお納めできたお像があり、新たに始まったプロジェクトもあった。
また、国の文化財レスキューの一環として、夫婦で能登半島に滞在したことも、この年を語る上で欠かせない。被災地の現実に、言葉を失い、ただ立ち尽くす場面が幾度もあった。それでも、「伝えなければならない」と、PRプロデューサーとして突き動かされるものがあった。
PRの仕事では、メディアPRに加え、ブランディングの根幹に踏み込む実務やコンサルティングにも携わった。クライアント様から、「業界ではあり得ないような大抜擢をされた」「来年公的なお仕事をいただいた」という嬉しいご報告もいただいている。
チラシ制作は五件。「これは名作」「このチラシで次の仕事にもつながった」といった、こちらもありがたい言葉も頂戴している。
また、生涯大学での授業「仏像と人の物語」もご好評をいただき、六回登壇する機会に恵まれた。
「パート2もぜひ」とのお声も頂戴したが、さらにエピソードが増えたので、機会があればあらためてご紹介したいと思っている。
家族にとっても、忘れがたい一年だった。
娘が自由研究で表彰され、高知県、そして四国での発表会に派遣された。八月から十一月末まで、家族で支え合い、やりきった日々だった。
その一方で、黒猫のウニが、ある日突然、天国へ行ってしまった。工房と暮らしの中に、今もぽっかりとした穴を残している。ウニに会いたい。
新たな出会いもあった。
ドイツからのインターン、Mariekeと過ごした三週間。帰国後、彼女は新たな工房に縁を得て、アーティストとしての一歩を踏み出している。製作中のHPには、当工房のことも掲載してくださるそうで、楽しみにしている。
直接お目にかかることは叶わなかったが、ベルリンの若者Milanとのメッセージのやりとりも、温かな記憶として残っている。
文化財保存修復学会では、文化財PRについて発表の機会をいただいた。
専門と実務、現場と社会をどうつなぐか。問いはまだ途上だが、投げかける場所に立てたこと自体が、大きな一歩だった。
雅楽の演奏会には五回参加し、そのうち三回はMCも務めた。奏でるだけでなく、言葉で橋をかける役割をいただけたことは、これまでの歩みが、結び直され、実を結びつつあると感じられる出来事だった。
茶道の稽古は、すべてをおいて集中できる、貴重な時間だった。
基本から少し進んだ点前まで、師匠や姉兄弟子に見守っていただきながら、茶道の奥深さに、ますます魅せられる一年となった。来年は国民文化祭も控え、高知での茶道生活が、さらに楽しみである。
個人的には、自分の未熟さ、越えなければならない課題を、真正面から突きつけられた一年でもあった。
しばらくSNSも控え、じっくりと見つめ直す時間を取っていた。今は、「磨いていただいたのだ」と、感謝の気持ちでこの大晦日を迎えている。
まだまだ書ききれない、たくさんの感謝の出会いと出来事が、胸に去来する。1000日コラムで毎日書いてきたことが、記憶を鮮やかにしてくれているのは、大晦日の発見でもあった。
ご支援くださった皆さま、静かにお見守りくださった皆さまへ、心より御礼申し上げます。
皆さまにとって、来る新年が、穏やかで実り多き年でありますように。
来年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。
よしだ造佛所 共同代表
吉田沙織
例年お送りしている年賀状につきましては、本年は旧暦新年にあらためてご挨拶をお届けする予定です。立春の頃、またあらためて、心を込めてご挨拶申し上げます。


