現代造佛所私記 No.252「未来へのランウェイ」

「5、4、3、2、1——」

子どもたちの声が体育館に弾けた。幾重にも重なる声が力強い。「ゼロ!」の瞬間、音楽が流れ出した。

二人一組になった小さなモデルたちが、順番にランウェイを歩き始める。私はカメラを構えながら、息を呑んだ。

子どもたちが纏っているのは、色とりどりの、本物の衣装だった。「本格的」ではない。海外のコレクションでも活躍する地元出身の衣装デザイナー、小松希芳さんが手がけた紛れもない「本物」の作品だ。メジャーアーティストが実際に袖を通した衣装もある。そんな「生きた」衣装を、子どもたちは今、自分の身体で表現している。

地方の小学校の体育館が、ひととき、夢の舞台に変わっていた。

カメラを構えている私にとって、ファッションショーの撮影は初めてのことだった。いつもは動かない仏像を相手にしている。自分のペースで静謐な時間の中で対峙する。けれども今日は違う。光の中を、歓声と衣擦れの音とともに、生身の子どもたちがどんどん歩いてくる。

ファインダーを覗きながら、私は昨日のリハーサルで少し照れくさそうにしていたという彼らの姿を重ねていた。けれども、目の前を歩く子どもたちの表情は、晴れやかで迷いがない。低学年の子も、高学年の子も、一人ひとりが驚くほど堂々としていた。まぶしい笑顔。ポージングにあふれる自信。それぞれの個性が、まるで衣装に呼応するように光っている。

プロの衣装と観客の歓声、そして何より、モデルとなった彼ら自身の内側から湧き出る輝き。それらが一体となって、会場を満たしていた。私は夢中でシャッターを切った。彼らの一歩一歩が、小さな未来へと踏み出しているように見えた。

ショーが終わり、ランウェイを歩き終えた子どもたちは、舞台袖で待っていた小松さんと一人ずつハイタッチを交わしていた。小さな手のひらと小松さんの手のひらが、触れ合うたびに、パッと光が放たれるかの様に見えた。

あとで伺って驚いたのだが、この短い準備期間の中で、小松さんは総勢40名の子どもたち全員の名前を覚えていたのだという。

「学年まではちょっと覚えきれなかったけれど」

そう笑いながら仰っていたが、子どもたちは自分の名前を呼ばれるたびに、きっと胸の奥が誇らしさでいっぱいになったに違いない。

小松さんは、この小学校の卒業生でもある。この地域から世界へ羽ばたいた先輩の姿を、子どもたちは今日、目の前で見た。それは「夢はこの場所からでも始められる」ということを、何よりも雄弁に物語っている。言葉ではなく、存在そのもので。

過疎化が進む地方でも、人と人とが親しくつながり、子どもたちに明るい未来を見せていける。今日のランウェイは、まさにその希望の象徴だった。

赤いカーペットの上を歩く小さな背中を、ファインダー越しに追いながら、私は思っていた。

——なんて夢があるんだろう。

そして、それを信じている大人たちがいる。

★衣装デザイナーの小松希芳さんのインスタはこちら

小松希芳さんのインタビュー(2024年)ブランド名「Juno」の由来などもお話しされています。