昨年の夏、実家で採れた小夏を家族で食べた。娘が種を「ぺっ」と吐き出す。その粒を空いた鉢に埋めてみたら、やがて芽が出た。苗木は五つ。今ではどれも一尺ほどになっている。
芽が伸び始めたころ、夫と「どうしようか」と話した。地に下ろして実を目指すか、鉢のまま愛でるか。決めかねて、そのままにしていた。
彼岸が過ぎてふと鉢に目をやると、葉の多くが虫に食われていた。残った葉の上に、何やら黒いもの。黒と白のまだら模様の幼虫がひたすら食み続けていた。ようく目を凝らすと、緑色の幼虫もいた。「あ、蝶の幼虫だ」
全部で九匹。葉脈だけ残して、どんどん食べる。糸を吐いて体を葉に結びつけ、風に揺れても落ちないようにしているものもいた。
今朝、娘を見送ったあと、夫と鉢をのぞきこんだ。「昨日より大きくなってるな」と夫が笑う。私も笑う。日毎に姿を変えていく幼虫たちを、二人で眺めた。
一番最初に終齢になった幼虫が、体の色を一段と濃くして動かなくなった。蛹になる準備だろう。
それにしても、一つの鉢に九匹。近いうちに食糧危機に陥るのは火を見るより明らかだ。
幸い、元気な苗が他に三つ残っていた。八割がた食い尽くされた枝から、小さめの五匹を別の苗へ引っ越しさせる。夫と静かに運ぶ。幼虫たちはしばらく動かなかったが、やがて一匹ずつ新しい葉へ移っていった。
まるで、このために小夏の種を植えさせられたかのようだ。
夕刻、帰宅した娘に「青虫さん、お引越ししたよ」と声をかけると、「見たいみたい!」と駆け寄ってくる。一匹の青虫が黄色い臭角をにょっきり出して、スパスパと動かした。「かわい〜」と娘が笑う。
そのすぐ横の苗木で、脱皮を終えたばかりの薄緑色の幼虫が、葉の上で頭を揺らしていた。娘は目を輝かせ、じっと見ていたかと思うと、「粘土で青虫つくる!」と勇んで家に入っていった。
毎年、春と秋、ある日突然、家の周りに蝶が群れ飛ぶ日がやってくる。今年は、その前の、幼虫たちの食む気配に出会えた。
あと何日で、乱舞の日を迎えられるだろう。鉢のそばで、柑橘の香りを吸い込んだ。


