鳥居の周りに、屋台のソースが焦げる匂いが立ちのぼっている。甘い焼き菓子の香ばしさに、秋草の青い匂いが混じり合って、懐かしい祭りの夜がそこにあった。
一礼して鳥居をくぐると、玉砂利を踏み鳴らしながら拝殿へと向かう。境内では、勇壮な太刀踊り「ひよこち」が舞われている最中。舞人らを丸く囲む人だかりは、鳥居の外にも及んでいた。
灯りに照らされた子どもらの勇姿が、人だかりの隙間から覗く。あどけない顔に、真剣な眼差しを浮かべ、総勢26名の見事な演舞が繰り広げられていた。
乾いた太鼓の音が夜空を貫き、闇に底光りするような古老たちの歌声が拝殿から八方に広がる。
勇壮な踊りとは対照的に、歌詞は町ののどかな景色をうたったり、寿ぎを告げていた。
かつて自らも踊り子であったであろう古老たちは、歌いながら何を思うのだろう。遠い昔の故郷の賑わいを重ね、様々な感慨を抱いていたのではないか。
その光景は、私自身が幼い頃に胸に刻んだ祭りの姿が、まさに蘇ったかのよう。けれど私は、その頃とは違う場所に立っていた。あの頃は新しいブラウスに袖を通し、幼馴染と連れ立って出かけた楽しみの夜。今は直垂に身を包み、烏帽子を被って静かに拝殿の中でご神事を待っている。
境内の夜が次第に濃くなる。
拝殿の格子から漏れる琥珀色の光は、秋風に乗って、神官や総代たちの衣を煌々と照らしながら、祭事の結界を際立たせていた。
祓えのサラサラとした音がそっと鎮まると、楽太鼓の一打が闇を裂いた。
合図を待って、私は龍笛を唇の下にあてる。細い吐息混じりの音に続いて、笙、篳篥の音が、滔々と境内に広がっていく。厳かな楽太鼓の響きと三管の旋律が、とろみのある光と夜気に溶け、境内を囲む椎の木の枝先まで巡るようだった。
この土地も老いた。多くの地方で見られるのと同じように、若い世代は町へ出て、祭りの担い手が減るなか、コロナ禍もあり、祭りのあり方を問う声もあったと聞く。けれど今夜は、過去の賑わいを彷彿とさせる雰囲気が満ちていた。
神社本庁の過疎地域神社活性化推進施策の支援を受け、今年の本祭は特別な催しが企画されていた。六年ぶりに太刀踊りも披露されるタイミングで、地元出身の噺家による落語や漫才、生演奏による浦安の舞も祭りを盛り上げた。そして私は、赤子の頃から馴染んだ氏神様の前で、龍笛を奏でた。
産土での奏楽。それは笛を手にしてからの願いだった。お宮参りに始まり、節目ごとに手を合わせてきた神様へ、楽の音を捧げている。初めてご一緒する伶人の方々も皆、温かく迎えてくださり、大変嬉しかった。
「過疎のまちで、こんな立派な祭りを…感動して涙が出そうです」
演奏でご一緒した薫的神社の中地宮司が、しみじみと語られていた。その一言に、思わず周りの人々を見渡すと、ここへ集まった皆が、土地の誇りと希望をまさに今、感じているのではないかと思えた。
光と影の境を、祝詞が結んで皆の思いを包んでいく。
その片隅で私も、神様への畏怖と親愛に満たされ、龍笛を奏でながら末永い故郷の幸せを願った。
一つになった人々の思いが、楽の音にのり、境内を越えて町へも広がり、秋の夜を澄んだ響きで満たしていくようだ。
風がサーっと吹き抜け、椎の枝々を優しくゆらしたのち、宵宮はやがて夜更けの静けさへと帰していった。


