現代造佛所私記 No.210「異国の台所から(後編)」

「枝豆は娘の大好物だ。きっとそのことも覚えていてくれたのだろう。遠い異国の台所に、我が家の記憶がよみがえっていることが、なんと愛おしいことか。」

胸がジーンと温まるのを感じながら、私は慌てて返信を打った。

「Dear Marieke, Thank you so much for your lovely message! How did the aubergine recipe turn out?」

きっと美味しくできたであろう彼女とパートナーの食卓を思い浮かべる。

「Just two days ago, Yasumasa cooked ramen, and our family said, “Marieke also enjoyed it so much!”」と書き送った。互いを遠い場所で思い出している不思議さと温かさに、言葉以上の結びつきを感じる。

日本と同様、ドイツも雨が降っているらしい。同じ空の下、遠く離れた場所でも季節を分かち合っていることに不思議な親しみを感じる。

あの頃、どうしても発音できなかったドイツ語を思い出す。Glühwürmchen――「蛍」だ。

母音の強い日本語訛りの発音を、マリケはいつも笑みを浮かべて聞いてくれた。今はすっかり秋の装いとなり、あの夏の始まりの空気が遠い夢のように思える。夢だったのではないかと思うほど美しく、香り高い五月の夜を、私たちは彼女と共に過ごしていた。

あれから数ヶ月、いつの間にか季節は春の終わりから秋の始まりへと進んでいる。

この先にまた再会の未来が来ると良いな。彼女がこれから手がける作品を近くで見たり、娘の小さな願い――「Mariekeとドイツでお菓子パーティー」を開く、そんな日が訪れますように。

今日もまた食卓に向かう。遠い異国の台所からの便りとともに。

(アイキャッチは、5月に吉田仏師が作ってくれたラーメンに舌鼓を打つMariekeと娘)