現代造佛所私記 No.204「150年のお祝い(前編)」

九月の陽射しは、まだ容赦がない。けれど神社境内を渡る風に、ふと秋の匂いがした。昨日の激しい雨が嘘のような快晴である。空の青さが、今日という日を寿いでいる。

通夜殿前に、丸イスが並んでいく。緑のテントが張られ、舞台が整っていく。本日は「雅楽奉納演奏と白拍子舞」。ご本殿創建百五十年を記念する祝いの日だ。

舞台に立つと、右手に千年杉の御神木が見える。幹周りも太く、威厳に満ちた巨木である。百五十年という節目も、この樹にとっては少年期に過ぎまい。神さまの時間からすれば、ほんの一瞬。それでも悠久の年輪に、今日という一日が確かに刻まれていく。

演奏前、記念の年を迎えたご本殿で、伶人一同お清めを受けた。

ふと見ると、やなせたかし氏の絵馬が目に留まる。アンパンマンと仲間たちが、鮮やかなオーロラを背に海上を同じ向きに飛んでいる。微笑みを湛えた彼らが、御祭神へ心を向けるよう促してくれているかのようだった。社殿の渋い木肌との、不思議な調和。この地で亡き妻と共に眠る作家の温もりが、今もこの場所を包んでいる。

背後には、舞台の幕開けを待つ観客の穏やかなざわめきが。頭を垂れた私たちに注ぐ、祝詞の声と柔らかな太鼓の響き。これから始まる舞台へと、意識が研ぎ澄まされていくのを感じた。

「それでは、お願いします」

宮司、伶人たちと心を合わせ、舞台へ。

天に向かって、笛の音が抜けた。「豊栄の舞」の始まりである。

地元の小学生四人が、可憐な衣装に身を包んで現れた。あどけない表情に、夏の間積み重ねた稽古の成果が宿っている。季節の花を手に舞う姿が、伶人たちの調べと相まって境内を華やかに染めていく。

やがて、自然と湧き起こる温かな拍手。

MC役の私は、マイクを差し出した。「緊張しました」 「夏休み中、お稽古しました」 「家族が見に来てくれました」「楽しかったです」 一人一人が素直に答えてくれる。観客席の表情も、自然とほころんでいた。

そして次は、世界最古のオーケストラ「雅楽」。身体中に響くその音色が風に乗って、通夜殿から客席へ、鎮守の木々へと広がっていく。

舞台転換の後、白拍子が現れると、また一つ空気が変わった。艶やかな歌声、優美な所作。遠い時代の面影が、今ここに甦っている。扇が宙に描く弧に、時の流れが見えるようで、私は舞台袖で役割を忘れて見入っていた。

その余韻は、舞台最後の演目へと静かに引き継がれていった。(後編へ続く)