仕事の打ち合わせに向かう途中だった。
家の近くのキャンプ場のカフェへ歩いていくと、見慣れない県外ナンバーの車がこちらに向かってくる。観光客かと思いきや、カフェを通り過ぎ、さらに先へ進もうとしている。この道の先にあるのは、我が家くらいしかない。迷ったのだろうかと目をやると、車が横に停まり、助手席の窓が開いた。
「すみません」
声をかけてきた運転席の男性と目が合った瞬間、お互いに「ああ!」と声を上げ、思わず手を差し伸べ合った。懐かしさがこみ上げる、数年ぶりの再会だった。
母の元上司であるKさん。私が子どもの頃から存在を知ってくださっていて、保護者のように気にかけてくださる方だ。東京から移住してからも、カフェや法要の場などでたびたび「ばったり」出会う不思議なご縁があった。
工房の移転とコロナ禍が重なり、ここ数年は年賀状だけの交流になっていた。だからこそ、こうして元気に顔を合わせられたことが嬉しかった。
キャンプ場のカフェに立ち寄り、Kさんはホットコーヒーを、私はレモンスカッシュを頼んだ。短い時間ながら、思い出話や近況を語り合い、笑顔がこぼれた。うまくいかないことや取り組んでいること、体調のことを、お互いに深刻にならず分かち合った。
その帰り際にかけられた言葉が、心の奥にまっすぐ届いた。
「私は応援団やから。あなたたちが元気だったらいい。それだけでいい」
迷いや課題に足をとられがちな日々。けれど、この一言はすべてを包み込み、肩の力をふっと抜かせてくれた。
さらに手渡してくださったのは、ご自身が育てた新米と、娘にと見繕ってくださったお菓子。ずっしりとした米の重みと、レジ袋にいくつも入った小さなお菓子は、そのまま心の支えとなった。娘に渡すときの笑顔が、目に浮かぶようだった。
Kさんを見送ったあと、足取りは自然と軽やかになっていた。ふと道端に目をやると、植えていたフジバカマが小さなつぼみをつけている。まだ硬いつぼみの先に、これから開く花を思い描いた。人との縁もまた、こうして時を経て、思いがけず花開くことがあるのだろう。
「元気だったらいい」――その言葉と実りの温かさに、私は歩く力をいただいた。


