現代造佛所私記 No.175「自由研究」

今年の娘の夏休みの自由研究のテーマは、「接着剤」だ。

工作が大好きな彼女は、同じ接着剤でも木や布、陶器など、素材によってくっつき方が違うことに気づいた。

漆で継いだ食器を見て、「どうして水で洗っても取れないの?」と首をかしげたこともあった。

私たちの会話に頻繁に登場する「にかわ」。なんだか良い感じの接着剤らしい、という興味も背中を押した。そんな小さな疑問や好奇心が積み重なって、この夏のテーマへと育っていった。

木工ボンド、スティックのり、米のり、膠、漆、瞬間接着剤。伝統から現代まで、六種類を選んで、さまざまなサンプル片を接着していく。

サンプル片は、木材、アルミ板、アクリル板、布、画用紙の5種類だ。

今日は、夫と並んで、接着が安定した各サンプル片の接着強度を測っていた。

輪ゴムで簡易の引っ張り試験をする姿は、真剣でありながらどこか微笑ましい。

冷蔵庫は冬の部屋、保温ボックスは盛夏の環境、室内はその中間。小さな家が、研究室に変わった。

さらに、プロ仕様の温湿度のデータロガーまで引っ張り出し、ログをとりながら全力応援。「冬と夏の平均気温は?」と調べることも、研究の一部になっていく。

仏像製作や文化財修理の現場で日常的に使う、膠や漆に触れるときは、吉田仏師の監督下で。職人の道具や知恵が、ここ数日は娘の自由研究の舞台装置になっていた。

まだぎこちない時刻と時間の見方。習ったばかりのグラフと表。小数点やパーセンテージは、まだ教科書の先にある未知の世界だ。けれど、この実験には気温や湿度が大きく関わってくる。暮らしの中で感じてきた感覚を、数字で追いかける機会になった。

どこまで彼女が観察し、理解できているのかは分からない。けれど「接着剤のことを知れば、工作がもっと上手になるかもしれない」——その希望が、彼女の心をほんの少し前へ押し出している。

親として「こうすればもっと正確な結果がでるのに」と思う瞬間もある。けれど、うまくいったことも、投げ出しそうになったことも、そのすべてが彼女の学びになる。模造紙にまとめるのはきっとまた一苦労だろう。

けれど、その過程こそが、自由研究で大切なことなのだと思う。