現代造佛所私記No.162 「Cypress Sculpture JAPAN」

若き空海が、唐へ渡る前、室戸(むろと/高知県)の御堂で修行していた。そこへ、魔物たちがわらわらと集まり、修行の場をかき乱したという。

そんな場面が描かれているのが、弘法大師空海の一生を描いた「弘法大師行状絵巻」だ。

——魔物といっても、絵巻に描かれた彼らは、それほど恐ろしい姿ではない。笛を吹いたり、口を窄めて突き出したり、お堂の穴の空いた土壁から空海の様子を覗きこんだり。何やら好き勝手にしている。口元はどこか緩み、屈託のない表情は間が抜けていて、どことなく愛嬌すら漂う。

その平面の物語を、吉田仏師は土佐ヒノキの一木造りで立ち上げた。袖の垂れ方や帯の結びを確かめるため、吉田仏師は私に布を巻きつけ、装束を模してひだや裾の開きを再現した。ノミが木に進むたび、絵巻の中の空気が少しずつ立ち上ってくるようだった。

いくつかある魔物たちの中で、この三人組が並んだ瞬間が最も印象に残っている。彼らの物語が動き出したと感じた。

施主様にお納めしてからは、写真の中だけで会う存在となった三人。それが今朝、思いがけずデバイスの中で再会を果たした。

名古屋在住の動画クリエイター・いしばしたけしさんが、静止画に命を吹き込んだ映像を送ってくださったのだ。まるで彫像の周りを飛び回っているようなカメラワーク。指先や視線がわずかに動く錯覚を覚える。

鉦の軽快な音と太鼓の力強い響きが重なると、画面の向こうから室戸の荒々しい風や波音、潮の香りが吹き寄せてくるようだった。娘も夫も「すごい、かっこいいね!」と声を上げた。

過去の写真素材でも、技術次第で新しい命を吹き込める。この物語の断片は、きっと遠い未来の人にも届くだろう。そんな可能性に、胸の奥が少し熱くなった。

ぜひ、ご覧いただきたい。

私たちは分厚い自我を着込んだ、この魔物たちのような存在かもしれない。けれど空海や御仏の眼には、哀れで、かわいくも映るのだろう。千二百年前、空海に出会った魔物たちは、その後仏道に目覚めただろうか——あるいは、いまも、この世界のどこかで、神輿を担いでえっさえっさと問答を吹きかける相手を探して歩いているのかもしれない。


作品情報
作品名:悪魔問答より「三人組の魔物」
制作年:2020年
技法:一木造り
材:土佐ヒノキ
彫刻:吉田安成
映像制作:Takeshi ISHIBASHI
参考史料:『弘法大師空海行状絵巻』