現代造佛所私記No.157「挂甲武人と小さな職人」

私のパソコンや書類は、今日だけは机の隅へと追いやられた。半畳ほどぽっかり空いた机上のスペースを、小学校3年生の娘が堂々と陣取っている。

「挂甲武人(けいこうぶじん)を作る」

意気揚々と娘はサラサラと新聞紙を敷き、その上に工作用ボードをのせる。傍らには、絞られた雑巾と水入りの紙コップが、静かに待機する。竹串と爪楊枝は道具として整然と並び、中心には本日の主役、素焼き風粘土がどんと鎮座していた。その粘土に正対するのは、猫耳のヘアバンドをつけた小さな職人だ。

彼女は夏休みに入るずいぶん前から、この工作のテーマを決めていた。なぜか平安時代以前の日本にロマンを感じ、創作意欲を滾らせていたのだ。

下校しては、勾玉のアクセサリー、紙粘土の卑弥呼、紫式部のイラストなど、次々と作品を生み出した。夏休み前から、その小さな手はひたすらものづくりに邁進していた。

夏休みに入ってからは、健気にも遊びたい心をぐっと堪え、自分なりに段取りを組んで、漢字や計算をコツコツと仕上げていった(ダラダラと過ごす日も相応に多いが)。そうして、ついに本命である「挂甲武人」の製作日を迎えたのである。

「どうして、挂甲の武人を作ろうと思ったの?」

「そりゃあ、埴輪と言えば挂甲の武人でしょう!」

「どうして埴輪だったの?それに、埴輪でも、馬とか、楽器を奏でる人とか、色々あるけど…」

「だって、可愛いじゃない?中でも、挂甲武人が一番可愛い!!」

とにかく、あの独特な風貌の武人を自分の手で再現したいという、強い衝動に駆られていた。

試作品は総高15センチほど。本番は、その倍の30センチで作るらしい。登校日、無事運べるだろうか?と、梱包と運搬の心配をする親心は知らぬまま、作る喜びに満たされた後ろ姿をじっと見守る。

試作段階での課題は?と訊ねると、細やかな模様がどうにもうまく描けなかったこと。そして、足元から作り上げていくうちに、頭部で集中力が途切れてしまうことだったそうだ(その結果、顔はかなり適当になっていた)。

「なんであれ、”作品”を完成させるっていうのは、本当にすごく大変なことだよね。」

暗くした部屋の中で、添い寝する私の言葉に、娘はぎゅーっと抱きついて、黙って頷いた。その小さな身体の内に宿る、ものづくりの厳しさ。私も小さな体を抱きしめ、その頭を撫でた。

完成までの道は、きっと険しい。しかし、この小さな職人の手は、もう迷わないだろう。