現代造佛所私記 No.267「法鼓がきこえる」
ガタガタと、急勾配をトラックに揺られて登る。乾いた土で化粧されている、根をあらわにした木の束が、カーブの脇に積み上げられていた。 やがて眼下に、ほんのり桃色に染まり始めた空と、穏やかな北の海が広がり息を呑んだ。 この先の...

ガタガタと、急勾配をトラックに揺られて登る。乾いた土で化粧されている、根をあらわにした木の束が、カーブの脇に積み上げられていた。 やがて眼下に、ほんのり桃色に染まり始めた空と、穏やかな北の海が広がり息を呑んだ。 この先の...
諸事情があって、夫は久しぶりに、私は生まれて初めて、コインランドリーというものへ足を踏み入れることになった。 夜のとばりが降りて、通りを歩く人の姿もまばらになった頃。洗濯物を詰めた大きな袋を三つ、二人で分け合い、灯りのと...
昨年の晩秋、能登へ赴いた。国の文化財レスキューの一環として、震災で被害を受けた寺院を巡り、仏像の応急処置を施すためである。 訪れた寺はどれも、地震の爪痕を生々しく残していた。廊下の板が抜け落ち、境内の一部が土砂もろとも崩...
のと里山空港から最初の寺院へ向かう道中、崩れた道路や、震災後の豪雨の爪痕が、なまなましく残っていた。まだ余震も続いていた。 タクシーの窓から見る景色には、ずっとずっと昔から続く、家族の、地域の暮らしの佇まいがあった。私た...
ちょうど一年前のこと。本格的な木枯らしが吹き始める直前の一週間、私たちは国の文化財レスキュー事業の一環として、能登半島地震で被災した仏像の応急処置のために能登へ向かうことになっていた。 当時、娘は小学二年生。留守のあいだ...
木枯らしが、本格的に吹き始めた。はらはらと紅葉した葉が山道に舞い、思わず車を停めたくなるほど美しかった。明日からは師走並みの気温になる、とラジオの天気予報が賑やかに告げている。 そんな寒さの入り口の日、時間をやりくりして...
(前編はこちら) やがて開演のブザーが鳴り、舞台が始まった。 影アナウンスの場面で、音響スタッフさんがブザーを鳴らすその刹那、フリーアナウンサーの大黒久美子さんの手元がすっと動き、マイクが音源から離された。たった数秒の動...
本番前の舞台袖は、黒光りする機材に囲まれて、どこか硬質な空気が漂っていた。高い天井から吊るされた暗幕が、あちこちで交わされる段取りの声を吸い込んでいる。 その向こうでは、照明の下で舞人や演奏者たちの音が行き交い、稽古の一...
高知県須崎市で催された「包丁式と雅楽の祭典」。今回、私は演奏ではなく、司会という役目を預かった。 舞台袖にいると、暗幕の隙間から煌めく舞台が、まるでフェルメールの絵画のように浮かび上がって見える。光の粒子が音と混ざり合い...
朝、娘と並んでバス停までの道を歩いた。 ここ数日で、山の色づきが一気に進んだように思う。娘は、手編みの赤いマフラーを巻いて、私のポケットに手を突っ込んで歩く。 4年前、彼女がまだ幼稚園生だった頃に、100円ショップで自分...