現代造佛所私記 No.164「時々原点に」
千日コラムを始めたのは、仏師である夫と共に営む工房の記録を、日々の暮らしごと残していきたいと思ったからだった。 仏像のこと、修理の現場、祭典の裏側——最初はその枠の中で語るつもりだった。けれど日を重ねるうちに、工房で交わ...

千日コラムを始めたのは、仏師である夫と共に営む工房の記録を、日々の暮らしごと残していきたいと思ったからだった。 仏像のこと、修理の現場、祭典の裏側——最初はその枠の中で語るつもりだった。けれど日を重ねるうちに、工房で交わ...
吉田仏師は、刃物研ぎの達人だ。だが、私は彼に研ぎを習ったことがない。結婚以来、アイキャッチ画像にもある吉田の後ろ姿を見ながら、見ようみまねで台所の包丁を研いできた。 今朝、サラダ用のトマトを切ろうとして、刃が思うように入...
若き空海が、唐へ渡る前、室戸(むろと/高知県)の御堂で修行していた。そこへ、魔物たちがわらわらと集まり、修行の場をかき乱したという。 そんな場面が描かれているのが、弘法大師空海の一生を描いた「弘法大師行状絵巻」だ。 ——...
正午を前に、草むらの片隅に、檜扇(ひおうぎ)が咲いていた。橙に斑の入った花弁が、まだ暑さの芯の残る夏の光を受けて輪郭を際立たせ、茎は迷いなく伸びている。控えめながら孤高の佇まいを感じるその姿は、茶室に活けると不思議と優雅...
二年かけて彫り進めてきた麒麟像が、ついに完成した。 硬さの手強いケヤキに、重ねてきた一刀一刀。 その像を、今日、神社の拝殿に据える。 境内では、祖霊殿の建立が進行中で、現場には大工の方々が入っていた。 設置予定の蟇股の脇...
娘がずっと行きたがっていた、市内の図書館で開催された「まんがBASE」のイベントに足を運んだ。 会場は、空調のきいた図書館の2階の一室。受付で「大人の方もどうぞ」とやさしく声をかけられ、子どもの付き添いのつもりだった私は...
広島への原爆投下から80年を迎えたこの夏。私は子どもの宿題の丸つけをしていた。 毎週月曜日にしている1週間の振り返りを、この2週間すっかり忘れていたことに気づいたが、8月6日と9日は、子どもの頃から決して忘れたことがない...
私のパソコンや書類は、今日だけは机の隅へと追いやられた。半畳ほどぽっかり空いた机上のスペースを、小学校3年生の娘が堂々と陣取っている。 「挂甲武人(けいこうぶじん)を作る」 意気揚々と娘はサラサラと新聞紙を敷き、その上に...
今年は、肌で感じる限り、乾いた日が続いていた。午前11時頃には日も差し、「今日も暑いね」などと夫と言葉を交わしていただのが——。 突然、みるみるうちに空が鉛色になり、サーッと涼やかに雨が降り出した。日照り続きだったからだ...
季節の移ろいにふと気づくように、デジタルの世界の中でも、相手のちょっとした変化を感じとる瞬間がある。 たとえば、今日がそうだった。 暑さもセミの声も、まだ夏そのもの。だけど、ふと見上げてハッとした。家の前の小川の向こうに...