仏像をみて「うわぁ美味しそう!」と思ったこと、ありますか?
…もしあったとしても、実際に齧ったりはしませんよね。
私は光背や蓮弁が美味しそうに見えることがありますが、もちろん食べません。
でも、ある生き物たちにとっては、仏像はまさに最高のご馳走。あるいは食事付きの高級住宅なんです。
木材を主食としている虫や、仏像の胎内に巣を作りお供え物などを狙う虫やネズミなどですね。
古い仏像などを拝見すると、そうした虫や動物にかじられて穴が空いていたり、傾けるとザーッと糞が落ちてくることもあります。食痕著しく「人型をしたスポンジ」のようになってしまって、かなり気を遣うケースもあります。
修理でお預かりする御像に虫やカビの害が認められる場合、全てのケースではありませんが、業者さんに燻蒸してもらいます。つまり御像を守るために、殺虫・殺カビをするということです。
今の日本では、出来るだけ環境や健康に配慮した薬剤やガスを使いますが、正直なところ「できれば殺生は避けたい…」というのが本音です。
それと、弊所は小規模ではありますが、いろんな仏像がいろんな環境からおいでになり、長い期間お預かりするので、お返しするまでの感染管理(と文化財分野でもいうんでしょうか)も大事なポイントになってきます。
このできるだけ殺生をしないということと、防カビ・防虫の措置は、自転車の両輪のようなもので、IPM(Itegrated Pest Managemant;総合的有害生物管理)やIBM(Integrated Biodiversity Management;生物多様性管理)の考え方に基づいたコントロールがその具体策ということになります。
また、弊所で仏像をお預かりしたということは、御安置環境について改善点をお伝えする機会もいただいたということですので、生物被害防除の具体的な方法も含め、広く学びたいと思っていました。
そんな折に参加したのが、奈良大学文化財学科の魚島 純一先生のワークショップ@高知県安芸市です。
タイトルは「誰でもできる文化財防虫害」。
魚島先生は虫害防除の研究・実践をされていますが、決して虫を敵視されているわけではなく、むしろ虫が大好きなのだそう。色々と虫を飼われて研究されているのだとか(Go・・riも下から見ると格好いいんですよ、なんておっしゃっていました笑)。
保存科学がご専門で、徳島県立博物館の学芸員でいらした魚島先生は、地方の小さな施設や寺院の課題に直面されていたそうです。
それが今の研究の原点となって、今回は地方の現状から生まれた「誰でも安価に実現できる虫害防除法」をご紹介いただいたというわけです。
感銘を受けたのは、虫や菌類、害を与える哺乳類が嫌がる環境を整えて文化財を守るという「対立ではなく共生」の考え方と、「誰でもできる」というユニバーサルなシステム設計でした。
今回は主に、古文書などの紙資料の保管が中心だったのですが、日本で成功しつつある事例を温湿度のデータやコストとともに伺って、弊所にも応用できそうなイメージが持てました^^
これからも情報収集・研究しながら、弊所に適したIPM、IBMを実践し、御安置先様にも提案して行けたらと思います。
魚島先生、主催の地域文化計画の皆さま、ご紹介くださった安芸市民俗資料館さま、誠にありがとうございました!