川越の鋸鍛冶 瀧次郎さん

川越の鋸鍛冶、伊藤守さんの工房に初めて伺ったの3年前。独立する直前でした。

土田刃物店 (世田谷区三軒茶屋)の店主、土田昇さんにご紹介いただいたのをきっかけに、美術専門学校OBで保存修復を学んでいたO君を連れて行ったのでした。

瀧次郎さんは、手挽きを主とする弊所にとって、本当に掛け替えのない存在です。


「中屋瀧次郎正義」の名で代々鋸鍛治を営まれ、守さんで五代目。

同じ場所で150年間、鋸を作り続けている老舗です。鍛冶場は、川越市の駅から歩いて15~20分ほど。

作業場は、1人で仕事できるちょうどの広さ。
向かって左手に、炭で鉄を焼く場所 (炉とおっしゃっていたかな?) があり、その上に神棚が祀ってありました。

壁には数多くの鋸が。注文や修理依頼の物のようです。

実際は、写っている以上に並んでいます。

鍛造で形を作って、カンナのような道具で表面を仕上げるそうです。
削ったときにでる鉄の屑は、細かくて綿のよう。「嗅いでみて」と言われて鼻を近づけて見ると、硫黄の匂いがしました。

これは「洋鋼」だという証拠。洋鋼は材料の製造工程で硫黄を使うためなのだとか。一方和鋼の場合、匂いはないそうです。初めて知りました。

その日は、古い前挽き鋸を見てもらいに伺ったのですが、伊藤さんの話ではやはりそれなりに古いらしく、「明治ぐらいかな」とおっしゃってました。

世田谷のボロ市で衝動買いしたもの。運良く良い買い物をしたみたいです。

材質は和鋼 (わこう:砂鉄を溶かしてできた鉄) だそうです。「ものは良いですよ、焼きを入れて目立てをして、歪みを直せば使えるんじゃないですか」

使えそうで一安心、続けてもう一つの相談を。

「カガリ鋸が欲しいんですが…」

注文で作ってもらうつもりで訊いたのですが、「別の店で作ったものがあるから」と、二挺出してくださいました。

歯渡り1尺2寸と1尺3寸の鋸でした。

金額は1尺3寸の方が30,000円、もう一つは錆びがあるからということで10,000円。 これは破格の値段です。

寸法的にちょうど良さそうな1尺3寸の鋸を購入することにしました。

O君は、1尺2寸の鋸を購入していました。たぶん買うつもりは無かったんだと思いますが、二人の会話につられて買ってしまったんじゃないかな。でも喜んでいたので良かったです。

因みに、注文して作ってもらうと75,000円だそうです。これは女将に相談しないと即決できない金額…。しかもその大きさでは出来ないらしく、そういう意味でもレアなものらしい。

勢いというのは本当に恐ろしいもので、気がつくとなぜかもう一本鋸を注文している自分がおりました (1尺の両歯をお願いしてしまいました)。

…頑張って仕事します。

今や数少ない鍛造で鋸を作っていらっしゃる職人さんなので、厳しい人かと思ったら、本当に気さくな方で、「削ろう会」や世田谷に「木挽の会」があること、目立てのことなど、いろいろ話をしてくださいました。

その後、前挽き鋸の目立ては一ヶ月ほどで出来ました。注文から仕上がりまでの間、柄を作ったり、Youtubeで鋸の動画を見たりして、ワクワクしながら過ごしたのも良い思い出です。

高知へ移転した現在も、ここぞという時に使っております。

鋸の柄は自分で作ります

川越の街もいろいろ面白かったです。また行きたいな。

まだ赤子だった娘も一緒に。

瀧次郎さん、ありがとうございました。またお会いする日までどうかお元気で!