高知城歴史博物館で、膠(にかわ)についての公開研究会が開催されました。
膠は、固着材・接着剤として、仏像の制作・修理でも大事な材料。
締め切り後のところ、無理を言って参加させていただきました。
1月の開催から少し間が空きましたが、レポートさせていただきます。
「原料由来の膠(にかわ)の性質と用途」内容 | |
1/20(土) | 「日本の古典的膠の再興と継承」 桃山学院大学 山内章先生 |
「油彩画の修復における膠」修復家 村松裕美先生 | |
「膠の理化学的分析」(地独)大阪産業技術研究所 木曽太郎先生 | |
1/21(日) | 膠作り・彩色体験のワークショップ |
初日は座学。
膠の歴史的背景や最新の研究、世界的な動向と展望、体験に裏付けられた貴重なお話、絵画の修理現場のお話等々。洋膠、和膠、古典的膠それぞれの違いも詳しく知ることができました。
一口に膠といっても多種多様。しかしながら、その品質・成分についてユーザーにほとんどオープンにされていないのが実情です。そのため、文化財の修復でも、不適切な膠を使って、化学薬品が析出したり表面が剥がれるなどの汚損・破損が見られるケースがあります。
今回は、山内先生に直接、木彫に最適な原材料(膠の原材料によって質が違う、適した用途がある)、その濃度について直接お伺いしたり、膠製品についても新たな情報をいただきました。これは、仏像レスキューの際、すごく便利かもしれないなと期待しています。
また、絵画修復で使われるコテを手にとって見せていただきました。村松先生の私物で、なかなかお目にかかれるものではありません。使いやすいように工夫された形状、素材について勉強させていただきました。
早速後日、コテ先を作ってみました。
仏像修理に使う剥落止め用の半田ごて。
アルミの棒とパイプで、こて先を作ってみた。いい感じ。
(半田ごては一般的な市販のもの) pic.twitter.com/SfLWxgc8zh— 仏師 吉田 安成 (@yoshidazoubutsu) January 24, 2018
二日目のワークショップでは、膠を煮る様子をみたり(美味しそうな匂い…)、割り箸に膠を塗布して接着の手応えを体験したり、顔料を溶いて使用感を確かめたりと、五感で膠を感じながら理解を深めていきました。
定員より8名ほどオーバーしていたでしょうか。みなさんとても熱心で質問も次々に出ていました。
ワークショップで古典的膠を作っています。一晩浸水させた乾燥皮を2時間半煮た状態。牛スジを下処理しているときのような匂いが。 pic.twitter.com/ms35IqMjN4
— 吉田沙織 Saori Yoshida (@Chibimame55) January 21, 2018
乾燥皮は木綿に包まれています。焦げ防止と脂肪分の吸着のためだそう。この一工夫でかなり作業効率アップするようです。
鹿皮の膠ができました。ここから乾燥工程に入るのですが、すでに使用できる状態です。 pic.twitter.com/DwLv1AITXe
— 吉田沙織 Saori Yoshida (@Chibimame55) January 21, 2018
鹿膠。割り箸もすぐくっつきます。 pic.twitter.com/ajeglzxumC
— 吉田沙織 Saori Yoshida (@Chibimame55) January 21, 2018
牛皮の膠を使った絵付け。短時間でしたが気づいたら乾いていました。
た、楽しい… pic.twitter.com/gsoDQ5oyEa— 吉田沙織 Saori Yoshida (@Chibimame55) January 21, 2018
弊所で扱う膠については、基本的に化学薬品を使わない膠(古典的膠)を用いたいと思っていました。
膠が安定した材料であることは現存する御像が証明していますし、化学薬品の成分析出等で像容を損なう可能性を排除したいと考えていたからです。
ただ、そのような膠は貴重なもので、安定供給が難しい。その点についても、今回の公開講座で良い出会いがあり、収穫の多い2日間となりました。
今回は、膠を軸に仏像制作や修復を捉えなおす機会をいただきました。
山内章先生はじめ関係者の皆様、誠にありがとうございました。
今年6月の文化財保存修復学会でお会いできることを楽しみにしております!