東京にいた頃から、そして高知に移住してからも、矢のメンテナンスでお世話になっている「長谷川弓具店」。
白金高輪の駅を降りると、新しい高層ビルがいくつか聳え立っていて、夫も私も互いに無言で目線を上に泳がせていた。
しかし、懐かしい上り坂へ向かう交差点までくると、足が軽くなった。お腹が空いたという娘を宥めながら、先を急ぐ。この坂を登れば。
リフォームされたと聞いてはいたが、昔ながらの間取りは健在で、懐かしさで胸がいっぱいになる。梁や整理用の箱、展示物など、以前からあるものも馴染んで、お店の歴史がしかと息づいていた。
店主の長谷川さんが、にこやかに迎えてくださった。娘を見て「大きくなったね」と声をかけてくださる。
そうだ、娘が前回こちらにお邪魔したのは、0歳の頃。移住直前に、ご挨拶もかね、家族三人で訪れたのだった。
ご健在だった、店主さんのお母様とのやりとりも、よく覚えている。店先のショーケースの上に、古い弽(かけ)を並べて見せてくださったり、娘を小上がりで預かってくださったり、本当によくしていただいた。娘は、弓より先に、弦で遊んだことになる。弓具店で遊んだことを覚えていないけれど。
この間、七回忌をお迎えになったときいた。昔から現代までの弓道界をよく知る方だったそうだ。
「古い、よいものを知らないといけない」
店主の長谷川さんは、多分3回はおっしゃったと思う。胸に、ストンと落ちた。
店主さんは弓を引かれるが、どこかの支部には属していない。お客様と一緒に練習したり、試合に出たりは決してされないとのこと。そういう距離を、大切にされているそうだ。
夫も、なんとなくわかるなぁと後で話していた。


