本格的な梅雨入り前の晴れ間。我が家の周りでは今、夥しい数の蝶々が舞っている。
生の喜びに溢れ、玄関先でひらひらと千々に舞う蝶たちは、我が家の勝手口の軒下に吊るされた半鐘の周りにも広がる。
「時を知らせる鐘」に止まった「変容の象徴」である蝶は、何を兆しているのだろう。
この半鐘は、ある不動三尊様の修理で、施主様から委ねられたものだ。
そのお姿に込められたお不動様の功徳は、本当に計り知れない。ご縁とは、時を越えて花ひらくもの。あるつながりが、またひとつ、思いがけない形で芽吹こうとしている。
いま私は、音と舞のパフォーマンスグループ「あはひ Awai」のPRを担当している。
「あはひ」とは、日本の古語で「間(あわい)」のこと。ひとつとひとつの間にある、目には見えない領域。
日本古来と現代の自然観・宇宙観に基づく音楽・舞踏表現を試みるグループで、メンバーは、ピアノと歌の新屋賀子(しんや よりこ)さん、古典楽器の笛・篠笛・笙などを奏でる中村香奈子(なかむら かなこ)さん、そして舞の松岡佳奈重(まつおか かなえ)さんの女性3人だ。
毎日何度もメンバーとチャットを交わしながら、6月15日の初公演に向けて、空気の渦のような場を立ち上げている。
舞台裏では今、その目には見えない渦をどう言葉にするか、そしてその渦を、どのように大きく育てていくか――皆と手探りで、日々試行錯誤を重ねている。
彼女たちを通して現れる、“無”から“有”へと生まれる「間(あはひ)」の世界。
それは、明確な輪郭を持たず、たゆたうような不思議な気配に満ちている。だからこそ、その余白や余韻を損なわぬよう、一つひとつの言葉の温度に、細心の注意を払っている。
それだけに、わかりやすさが求められるSNSの世界では、どこを守り、どこを尖らせるのか――。
道なき道を、慎重にかつ意図を持った決断を重ね、歩いている感覚がある。
音源を切り出し、詩のような言葉を添えて動画を仕上げる日もあれば、明け方にストーリーズ用の文案を練り直し、深夜にZoomの議事録をもう一度読み返す日もある。
ひとつの投稿が誰かの心にふれるには、舞台と同じくらいの気配と精度がいる。そんな実感を、最近、しみじみと感じている。
そんなある日、メンバーの笛奏者・中村香奈子さんのFacebookに、どこか見覚えのある、細身の眼鏡の男性の写真が載っていた。
あはひの舞台の音響担当との紹介だったが、「どこかで…お会いしたような…?」という感覚が、拭えなかった。
そして今日、メンバーから興奮気味にチャットが届く。
「横田さんが、沙織さんのご主人様とご縁があるそうです。
不動明王像の修復で、定福寺に納めたときのご縁だと伺いました」
その瞬間、ぼんやりしていた像が、はっきりと結ばれる。
――あ!やっぱり、あの横田さんだ!
9年前、東京で工房を立ち上げたばかりの頃。不動三尊の修理をご依頼いただいた施主様。その御世話人として立ち会ってくださったのが、まさに横田さんだった。
あれから月日は流れ、土地も役割も変わった。その横田さんと、今また、この舞台で再びご一緒することになるなんて――。
この「あはひ」は、まだ産声をあげたばかりのグループだ。ほとんど知られていないと言ってよく、その試みも、多くの人にとっては捉えどころがないかもしれない。
でも、東洋の奏と西洋の音色とリズムが響き合い、舞がその響きを視覚化していくと、空間そのものが呼吸をはじめる、不思議な空間をその場に創り上げるあはひの世界の中で、観客はこんな体験をしている。
まだ名前すらなかったプレ公演に立ち会った観客たちは、
「涙が出てきた」
「懐かしい記憶が蘇った」
「森の中にいるようだった」――
それぞれ、まったく異なる“感応”を受け取ったという。
そして今、メンバー・衣装・舞台美術・音響・PRが、「やってみます」「試してみていいですか」と声を交わしながら、本番に向けて、試行錯誤で“あはひという場”を編み上げている。
誰もが、自分の限界を一歩超えながら、まだ見ぬ風景をつくろうとしている。
不動明王と、矜羯羅童子、制咤迦童子の加護の中で、ふたたび巡り合ったこの不思議なご縁。
生まれるべくして生まれた舞台を、どうか、あなたの目で見届けていただけたら嬉しい。
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